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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十八話駿馬は龍虎の狭間を駆ける
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事だ。いい性格をした男――?である、
『我々は主権を維持しますし、お互いの善意に基づく協定も遵守します。我々は天龍ですので約束は絶対です』
 友好的中立って酷い話なんだなと思いながら葵もわざとらしく頷いて見せる。
「わかりました、それでは導術を呼びましょう」

『では私はこれで‥‥あぁもう他の連中から聞いているかもしれませんが、頭領政会はまだ長引きそうですが、少なくとも〈帝国〉に寄る話だけはありません、えぇどの程度、というのが争点ですな』

 天龍の術力をもってすれば距離にさしたる意味はない。つまりは礼儀と利益の話である。
要するに政治なのだ。外交は政治の一分野であるということだ。


同日 午前第十刻 伏ヶ原より西方二十里 皇龍道側道 
護州軍 独立浸透打撃大隊


 彼らの編成は3個中隊の大隊規模である。騎乗部隊の割には数が多く総計三百名に近い。
 彼らの中隊はそれぞれ数台の荷馬車を囲んでいる。短期間の行軍を見込んだが故の手抜きであった。

 護州軍本流ならばまずありえない姿である。更にあり得ぬのはそれぞれの中隊に導術兵が複数居る事だ。
 その行軍は見た目よりものんびりとしたものだ。一刻に六里程の速度である。その気になれば〈帝国〉銃兵の基本である10リーグ行進‥‥一刻五里、二刻十里のそれよりもやや早い程度でしかない。
 
 もちろん、駒州の産ほどでなくとも五将家本貫の地の馬である。その気になれば一刻で十二里を早足で歩かせる事もできる。
 荷馬車を伴っていても無理をすれば一刻十里は難しくない。
 軍隊では贅沢品である二頭引きの輜重馬車をつかうとなると街道から外れていてもそれなりの融通を効かせることはできる。
 だがそれをしない、何故なら馬が疲れてしまうからだ。軍隊は兵隊と馬の疲れを見極めなければ戦闘力を保持できない。であるからこそ〈帝国〉は略奪と女の楽しみを兵に推奨しており、〈皇国〉軍は太平の世であっても輸送力も温食の調達に熱心なのだ。

 中隊単位でばらして動かしても一刻で十里動ければマシ、といったところだ。余談ではあるが龍州の材木問屋などでは八頭の悍馬が引く七石を超える大荷物を運ぶ馬車もある。

「警告、騎馬の集団。伏ヶ原より西進、距離二十里、送レ」

「連絡線の警備だろうが‥‥面倒だな、あそこの林に隠れるぞ」


「大隊長殿、あと五百間で広い雑木林があります。二十里であればそこまでたやすく移動きますが?」
 中尉の軍服を着た太り気味の男は、既に疲労の色が出ているがその目は異様な熱を湛えていた。
「攻撃は日没後だ。それまでは敵に見つからんように慎重にすすむ。先行して偵察を出すから貴様もいけ」

「はっ!」

「大丈夫でしょうか?復役したばかりでこのような作戦に」
 踵を返し
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