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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
緋神の巫女と銀氷の魔女《デュランダル》 T
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キンジは薄暗い自室の中で、1枚のメモ紙に筆を走らせていた。
『──用事があるので早めに出る。』と。
カーテンに閉ざされた窓から差し込む朝の陽光は、仄かに彼の背中を照らしてくれる。臙脂のジャケットは、武偵校の制服だ。

その下に忍ばせた備え付けのショルダーホルスターには、愛銃のベレッタM92Fと予備弾倉が収められている。
兄から貰ったバタフライナイフも、勿論、忘れることはない。
最低限でありながら、彼にとって最大限の武装だ。

手早く書き終えた言伝をキャビネットの上に残しておくと、キンジは壁に貼られたカレンダーに視線を移した。
薄暗い中でもハッキリと見える、赤ペンで『X'day』と記された、今日の日付。それはアドシアード当日とも補足されている。

その手記は、見事に的中した。キンジは今さっき、隣にある白雪の部屋から物音がしたのを聴き逃していなかったのだ。
睡眠中だったとはいえ、昨夜から常に気を張りつめていた──それが功を奏したのだろう。

……不眠が祟らないといいが。と胸の中で呟いた。

時刻は午前5時を回ろうとしている。運良く異変に気が付けたことにキンジは感謝しながら、こうして用意を進めているのだ。
睡魔はいつの間にか消え去っている。それよりも、この先に起こる出来事への憂虞を拭いとることを、彼は望んでいた。

白雪はまだ部屋から出ていないらしいが、もうすぐだろう。
先日の葛西臨海公園で盗み聞いた話によれば、彼女と《魔剣》が接触することは確実だ。

それはいつだろう──そう、今日だ。

現在進行形で起こっている不自然な白雪の行動と、今日までの雰囲気から察するに、彼女は《魔剣》と会おうとしている。

つまるところ、星伽白雪という人間の身を差し出すということになる。彼女がキンジたちに相談の気色を見せなかったということは、《魔剣》に他言を禁じられているということだろう。

しかし何故、白雪を狙うのか。『超偵』という枠組みに彼女がいることは知っているが、キンジはそれを疑問に思っていた。

超偵とはすなわち、超能力者である武偵のことだ。ともすれば《魔剣》は、その力を欲しているのだろうか──。
そこまで考えた時、微かな金属音がキンジの鼓膜を響かせた。扉だ。扉の開閉音だ。それは、白雪が部屋を抜け出たことの証左に他ならない。数秒遅れて、玄関扉の開閉音もする。


「……ふぅー」


これ以上ないほどに張り詰めた空気。焦燥感。忙しない拍動。それを抱きながら、キンジは部屋と玄関とを無音で抜け出した。
茜に染まった空と雲が、五月晴れのキャンバスを描いている。そっと階下にある駐車場を見下ろすと、足早に歩いていく白雪の後ろ姿が視界に留まった。武偵校の制服を身にまとっている。


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