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ヘドロ
第三章

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「都庁が雇った人がな」
「録画したものですか」
「それがここだ」
「あの、何かもう」
 映されているマンションの状況を見てだ、唯和は達也にどうかという顔で言った。
「無茶苦茶ですよ」
「中がだな」
「とんでもなく荒れていて」
 廊下のあちこちにゴミ、腐乱したものが転がっている。そしてだった。
 喧噪や何かがぶつかったり壊れたりする音が絶え間なく聞こえてくる、そして廊下の中で殴り合ったり刃物を持って暴れている輩もいる。
 開けられたままのドアから見える部屋の中では薬物中毒に陥っているとしか思えない乱れた格好の女が複数の男達を相手にしていた、それも暴力が伴うものだった。
 引き篭もっている男はよく見るとネットを使って何かの違法行為をしている、ゴロツキが他人の部屋に押し入り怒鳴って住人を殴ったり蹴ったりしている。
 傷害事件や窃盗、性犯罪が朝から晩まで普通に行われ見れば殺されたと思われる死体もあるが誰も見向きもしない。
 その異常な空間を見てだった、唯和は達也に言った。
「これは」
「酷いだろ」
「日本ですよね」
「ああ、それも俺達の区だ」
「こんな場所が実際にあるなんて」
「屑しかいないな」
「もうそれこそ」
 唯和もこう言うしかなかった。
「ここは」
「そうした場所だからな」
「俺にもですね」
「入るなって言ったんだ」
「完全な無法地帯だからですね」
「凶悪犯だった奴や屑が集まるな」
 まさにとだ、達也も言った。
「そんな場所だ、ヘドロの溜まり場なんだよ」
「人間の屑ばかりが集まる」
「ああ、悪い場所には悪い奴が集まるっていうだろ」
「それがここなんですね」
「このマンションということなんだよ」
「何処からか自然と集まって」
「こうなってるんだよ、働いている奴なんてな」
 真っ当なそれはというのだ。
「一人もいないのがわかるだろ」
「はい、弱い奴から奪うか」
「売春とかな」
「あと覚醒剤売ってる奴もいましたね」
 映像にはそうした輩もいた。
「一階にキャッシュコーナーもあって」
「そこで違法に儲けた金を引き出してな」
「暮らしてる奴もいて」
「そんなな」
「稼ぎ方もですね」
「碌でもないのばかりでな」
「本当に腐り果てた」
 唯和もこう言うしかなかった。
「そんな場所なんですね」
「ああ、本当にな」
「どうしようもな」
「しかし」
 ここで唯和はこうも言った。
「前係長言われましたね。そのうち」
「ここから誰もいなくなるか」
「はい、そう言われてましたけれど」
「それはわかるさ」
「おいおいですか」
「前に言った通りだよ」
 このこともというのだ。
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