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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
恋篝T
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彼女は意識を傾注させている。


「あの花火の景色を覚えてるから、私は大丈夫。今夜の花火も楽しみだったけど、あの時の花火の方が、ずっと綺麗だった」


そう言って、彼女は海岸沿いへ駆け寄った。
そのまま、藍に散りばめられた輝石を背景に、振り返る。
浴衣の袂が靡いて、黒髪が艶美に曲線を描いた。


「それでも、花火よりも──傍にキンちゃんが居ればいいの」


心臓を穿たれたような、形容し難い感覚。そうして迸る血潮の如く、溢れ出たこの感情は、その名を明白に告げた。
先程まで胸中に掛かっていた(もや)は霧散し、既に過去の遺物へと想起してしまっている。

あぁ、これが──恋心、というモノなのか。
思えば如月彩斗は、いつだったか自分にこう告げたことがある。『白雪は、お前のことが好きだ』と。

当時は一蹴こそしていたが、日々を過ごす度に、名もなき感情の靄が一段と濃くなっていくのを感じていた。
それが、今。その感情に名前を付け、あまつさえ、濃霧も嘘のように晴れている。点が線になるのを感じている。

白雪がここまで自分を想ってくれているのなら──俺のやるべきことは、少しでも応えてやることだ、とキンジは決意する。
フッ、と笑みを零して、呟いた。


「ありがとう。……ちょっと待ってろ」
「えっ、キンちゃん、何処に行くの?」


白雪は振り返り様にキンジへと駆け寄ると、見上げるようにして問い掛けた。純粋な興味の篭った声色と瞳だ。


「売店に花火セットを買いに行くだけだ。心配しなくていい」


キンジは、地を蹴って駅の方へと駆け出した。後ろで白雪が何かを言っているが、風が頬を撫でる音で聞き取れない。
あくまでも彼女の護衛が役目だが、ものの数分だ。大丈夫だろう──。





白雪は、徐に駆け出したキンジの背中を茫然と見詰めていた。

──売店に花火セットを買いに行くと言ってたけど、私はキンちゃんと一緒に居れればそれでいいのに。
でも、花火を買ってきてくれるのは、少し嬉しいかも。

胸中を巡るのは、幼馴染への恋心。内に秘めていた想いを、今日やっと伝えられたのだと思うと、妙に心臓が早鐘を打った。
気のせいか、頬も火照ってきた気もする。きっと自分は今、誰にも見せられないような顔をしているのだろう。

白雪は、浮ついた足取りで遊歩道沿いのベンチに腰かけた。
手に提げていた巾着から携帯電話を取り出し、ディスプレイに目を見遣る。時刻は8時を優に越していた。

それと同時に、1件の不在着信が入っていることも、彼女は理解した。非通知着信だ。誰だろう、と小首を傾げる。
不審に思いながらも、白雪は通話ボタンを押し、受話器を耳へと軽く当てた。電子音が
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