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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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わらず不景気な面をしてるな、アラノック閣下には何も言われんのか?」
 ドブロフスキとラスティニアンは士官学校の同期であった。そして更に言えばどちらも下級貴族の出身であった。
だが決定的な違いが一つだけあったラスティニアンの実家は貴族の称号以外はすべてを失った没落貴族であったのだ。
その為、ラスティニアンという青年は家族を養うために刻苦勉励に励み、任官してからもその習慣を続けるのみならず上官に媚び諂った。兄妹の為に吝嗇でありつづけ少ない給金を切り詰めていた。であるからには当然、同期や部下からの評判はけして良くなかった。付き合いは悪く、上官に都合が良く使い潰す人間を愛する者はいない。
しかしそれでもなお陸軍大学校を優等な成績で卒業し、上層部の後押しがない人間としてはそれなりの速さで少将へと任じられている。

 一方、ドブロフスキは部下に慕われる性質の男であった。部下に鷹揚で兵には勝つたびに気前よく振舞ってみせた。ラスティニアンと同じ連隊に配属され彼の内実を知ってから交友を結ぶようになった。
 参謀教育への適性が薄かったことから昇進はラスティニアンより遅れている。だが下の者達からの人望はこの萎びた馬のような参謀将校を遥かに凌ぐ。
 それになにより彼は間違いなく一角の指揮官であった。有力者の格別の引きもなく本領軍で准将となっている事実がそれを十分に証明されている。

「実際に攻めこんであの結果だからな。こうして平常心を保つのも一苦労だ。笑うなどしたら狂を発したと思われるだろう。
それで、貴様の見る限りあそこの状況はどうだ」

 ドブロフスキは顔をゆがめて吐き捨てるように返答した。
「良くない、良くないとも。当然だろうが。貴様らがどう予想していたのかは知らぬがな。あの突角堡はただの土塊などではない。あぁ確かに我々の知る野戦築城の発展形なのだろうが、アスローンでも南冥でも見たことがない規模で拵えられている。
アレクサンドロス作戦で殿下の首を狙ったというのも納得できるくらいにはできるよ、あの連中。
あの要塞にこもるのも計画のうちだったのだろうよ。
あれが未完成だと思っているのなら忘れろ!そんな戯言は悪い冗談にしからならんぞ!あそこを貫くには念入りな準備が必要だ」

 どうにか生き延びた者達から聞き取った内容は気分が重くなるばかりだ。特火点は相互に支援できるようにちりばめられている。
恐らく傾斜路から雪崩れ込んで最初の銃兵壕を突破しても抵抗は続けられるだろう。入り組んだ塹壕線にはところどころ土嚢やらなにやらを積み重ねて銃廊めいたものを作っているところもあるらしい。

「雨季までに攻め落とすとして必要なものは」

「攻め落とすのならば大量の擲射砲、攻城砲、工兵隊、そしてなにより時間を産みだす魔法の壺だ。
もう一度言うが、あそこ
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