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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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 六芒郭は再び猛火の如き攻勢に襲われていた。六芒郭はその名の通り六つの突角累と
砲弾が南突角累へと降りそそぐ。
 白色の軍装をまとった銃兵たちは雷壕を足早に動き、突撃発起線の掩体壕に潜り込む。
 轟音に身をすくませる新兵、祈る古参兵、全てを受け入れ、ただ顔をこわばらせる下士官‥‥壕にこもった張り詰めそうな静寂を喇叭が打ち破る。
 下士官と見間違うような厳つい顔つきをした旅団長が鋭剣を振り上げ――下した。
「目標南突角堡!傾斜路!距離1リーグ!!総員突撃せよ!!」
 兵士達が馬出――突角堡へと続く傾斜路へと殺到する。しかし六芒郭に布陣している蛮族らは沈黙している。もはや抵抗の意思を失ったのか?或いは砲火力が敵を完全に叩き潰したのか?
 銃兵壕から放たれた白い津波が傾斜路から遂に南突角堡に届こうとしたその時、彼らは明確に返答した――否、否であると。
 擲射砲、平射砲、臼砲、施条銃‥‥あらゆる火力が傾斜路に降り注ぐ。そこを駆けあがる男達はたちまち物言わぬ躯となり水堀へと落ちていく。
 それでも兵達は健気に前へ、前へと進む。やがて傾斜路を抜け‥‥潰れた丸薬のような特火点よりあびせられる平射砲の散弾や塹壕に隠れた〈皇国〉軍銃兵の銃撃を浴びせられる羽目になった。
 この傾斜路を抜けた兵が倒れてからおよそ半刻程で退却喇叭が鳴らされることになった。
 この日、帝国軍の死傷者は900名、二個大隊が戦闘能力喪失と判断され、再編成の為に後退することになった。



皇紀五百六十八年 九月十日 午後第三刻 六芒郭北方十二里
〈マクシノマス・ゴートランド〉第9銃兵師団 第1旅団司令部 
旅団長 ドブロフスキ准将


 午前中に行われた威力偵察攻勢の成果の分析と後始末に旅団司令部は忙殺されていた。
不景気な顔をした中年男が姿を現した。
 真っ先に目を合わせてしあった士官候補生はのちに「葬儀の手配を終えたばかりの従軍司祭かと思った」とのちに零している。
 そして彼は埋葬される者の名を告げるような錆びついた口調で尋ねた。「ドブロフスキ旅団長はいるかな」
 陰鬱な葬儀続きの司祭の正体はラスティニアン少将――この細やかな列島国家に派遣された本領軍団の参謀長であった
「これはこれは、ラスティニアン参謀長閣下」
 敬礼を捧げる旅団司令部の先頭に立ち、出迎えたのは先程の攻勢で鋭剣を振るい、陣頭で指揮に立った旅団長だ、彼こそが〈帝国〉本領軍〈マクシノマス・ゴートランド〉第9銃兵師団が第1旅団を統括するドブロフスキ准将である。

「――二人で話したい、ついでに被害状況の確認をさせてもらおうか」
 ラスティニアンは常の陰々鬱々とした表情を崩さずに答礼をし、旅団長に顔を向けた・





「二人で話すのは久しぶりだなゲオルグ、相も変
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