第一章 令和の魔法使い
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学校の駐車場に、白い乗用車が停車した。
後ろのドアが両側とも開いて、それぞれから、えんじ色の制服を着た赤毛の少女と、簡素なスーツ姿の大人の女性が降りた。
「忘れ物はないだろなあ」
自動車の運転席から、野太い、のんびりとした男性の声。
「ない……はずだけど」
制服姿の少女、令堂和咲の声。自信がなくなったのか、弱々しい語尾である。
「初日から授業があると聞いてたから、準備はぬかりないはずだけど。あらためて聞かれると困っちゃうなあ」
「ま、なんか忘れてたら忘れてたで」
スーツの女性が、はははと軽く笑った。
「えーーっ、直美さあん、それで初日からいじめられたりしたらどうすんのおお」
「だあったら、自分でしっかりやっとけばよかった」
「まあ、そうなんですけどお」
憮然としたように唇をとんがらせる和咲。
「じゃ、いこっか」
声を掛けるスーツの女性、令堂直美、和咲の母親である。
正確には、義母である。
「頑張ってこい!」
運転席の中から男性ののぶとい声、令堂修一、和咲の父である。
正確には、義父である。
「うん」
微かな笑みを浮かべる和咲。
修一が身を大きく伸ばして反対側助手席の窓から手を出した。
パン、
と、和咲とその手を打ち合わせた。
音はすぐ風に溶け消え、和咲は身体を回れ左させて学校へと向けた。
校舎をしばらく眺めると、振り返り、自動車のボンネット越しに眼下に広がる湖のようなものへと視線を向けた。
大きいが湖ではない。手賀沼という名の沼である。
「じゃな。おれはこのまま仕事にいっちゃうけど、帰り迷うなよ」
去る自動車へと、和咲は手を振った。
手を下ろすと、しばらくそのまま風に吹かれていたが、やがて義母である直美と一緒に校舎へと歩き出した。
「あたしは手続き終わったら、ちょっと手賀沼をジョギングしてみたいんだけど。……和咲ちゃん一人で平気? ちゃんと、挨拶出来る?」
「あったりまえだよお。わたし、もう中学二年生だよ。どかーんと盛大に挨拶するから。もう以前のわたしじゃないんだ。ナイスな掴みで、一気に人気者になっちゃうからあ、だから心配はご無用」
「そっかそっかあ。子供扱いしてごめんね」
直美は笑いながら、娘の赤毛の頭をなで回した。
「子供扱いしないなら、それやめてよお!」
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令和 二十七年 五月 十五日 (曜日 月) 日直 山田 遠藤
いつも明るく
挨拶しっかり
自ら進んで行動
ここは我孫|子《こ
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