第一章 令和の魔法使い
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》市立天王台第三中学校の校舎三階、二年三組の教室である。
紺色の制服を着た男女生徒たち。
授業前のよくある光景ではあるが、みな大声ではしゃいでおり、教室は実にうるさい状態である。
前のドアが開いて担任の須黒美里先生が入ってくると、すーっと溶け入るように静かになったが、でもその後すぐに、あちらこちらの席からちょこっとしたざわめきが起きた。
先生に続いて、見知らぬ女子生徒が入ってきたためである。
この学校の指定とは違う、えんじ色のブレザーにタータンチェックのスカート。
長い赤毛を後ろで縛り上げすっきりまとめており、一見するとショートカットのようだ。縛っているのにところどころピンピン跳ねているのは、寝癖をまとめ切れなかったのかなんなのか。
女子生徒、令堂和咲である。
「もしかしてえ……」
「まさかあ」
と、何人かの生徒からそんな言葉が漏れる中、和咲はギクシャクギクシャク同じ側の手と足を同時に出しながら教卓の前まで身体を運ぶと、ギギッと回れ左してようやく動きを止めた。
まるでブリキの人形である。
「はいはい、静かにする! ……では転校生を紹介します」
須黒先生の言葉に、
「おーっ!」
「やっぱり!」
教室がどっと沸いた。
「令堂さん、自己紹介をして下さい」
「はは、はいっ!」
和咲は氷のようにガチガチに強張った表情を生徒たちへと向けながら、ぎゅっと手を握った。汗でじっとり湿った手を。
「…………」
小さく口を開くものの、つっかえつっかえで全然名前が出てこない。
なんだか大人しくじーっとしているようにも見えるが、
どど、どうしよう。どうしよう……
と、心の中では必死に焦りの声を上げていた。
本当に名前すらも出ない。頭が、真っ白になっちゃって。そ、そもそもなんだっけ、わたしの名前っ。
ずばーんと名乗って、すかーんとなんか面白いこといって笑わせてやろうと、昨日必死に挨拶の練習をしたのに。
どうしよう……
バカなことしていないで、普通に名乗る練習だけしとけばよかったよおおお。
「令堂和咲さんです。お父さんの仕事の関係で、仙台からこちらへ移ったとのことです。仲良くしてあげてね」
結局、先生が助け舟を出した。
「は、はい! 分かりましたあ!」
緊張ガチガチ赤毛の転校生は裏返った声で叫んだ。
「あなたがあなたと仲良くしてどうするんですか」
苦笑する先生。
教室内に、はははとちょっと乾いた笑いが起きた。
わ、笑われたあ!
いじめられる、それか、無視される、
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