暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
第二章 〜幽州戦記〜
十二 〜襲撃〜
[2/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 愛紗の香りを感じながら、ふとそう思った。



 朝方、と言っても空が白み始めた頃。
 ……ふと、妙な気配を感じ、目覚めた。

「ご主人様。起きておられますか?」
「愛紗。……お前も、気づいたか」
「はい。参りましょう、ただ事ではなさそうです」
「よし」

 愛紗は跳ね起きると、素早く美しい裸体を衣に包んでいく。

「刻が惜しい。これを使え」

 私は、兼定を差し出した。

「し、しかしこれは、ご主人様の愛剣では」
「構わぬ。私には、これがある」

 堀川国広。
 脇差ではあるが、紛れもなく、私の愛刀。

「参るぞ」
「はい!」

 天幕を出て、あたりを見渡す。

「彼処のようだな」
「ええ。あ、ご主人様。人影が」
「……よし。何者か、確かめてくれよう」

 陣の一角へ、二人で駆け寄った。
 そこは、糧秣の保管場所。

「おい、急げよ!」
「わかってるって。これだけありゃ、当分困らないだろうぜ」

 相手は五、六人というところか。
 私と愛紗であれば、心配は無用だろうが。

「ご主人様。賊、でしょうか?」
「確かに賊だろう。……だが、あれを見ろ」
「……あれは……何という事だっ!」

 愛紗が、歯がみをする。
 賊達の腕に巻かれたもの。
 それは、少し前まで彼らが、頭に巻いていたそれである。
 降伏した黄巾党の者で、我が軍に加わる事を望んだ者には、目印として黄巾を、左腕に巻くようにさせていた。

「どうやら、逃亡を図ったようだな。その行きがけの駄賃に、糧秣を掠めていく……そんなところか」
「ご主人様の恩を仇で返すとは……。許さぬ!」
「待て、愛紗。奴らの動きが、妙だ」

 私は、愛紗の肩に手を置き、押し止めた。
 糧秣を盗み出した者共は、そのまま陣を抜け出す、とばかり思っていたのだが。
 ……どうやら、私の天幕に用があるらしい。

「しかし、大丈夫か?」
「なあに、女とよろしくやっているような腑抜けさ。寝込みを襲えばイチコロよ」
「そうだ。俺達をこき使うだけで、てめぇでは何もできねぇ、ただの優男。それでも首を持っていきゃ、大手柄だぜ?」

 ふふ、腑抜けか。
 私も、酷く見くびられたものだ。

「ご主人様。……宜しいですね?」

 どうやら、本気で怒っているらしい。
 だが、己の事のみ考えるような輩、確かに手加減は無用。

「うむ。あのような者共、一人とて生かすに及ばず」
「御意!」

 まさに、私の天幕に襲いかかろうとする輩に、

「待て! 外道共!」

 愛紗の一喝が、全員を凍り付かせた。

「げ? か、関羽?」
「土方の情婦(いろ)が、何故ここに?」

 賊の一人の言葉に、愛紗の
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ