暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
第二章 〜幽州戦記〜
十三 〜并州〜
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 行軍の最中。
 私は、月と轡を並べて進んでいた。

「月。并州について聞きたい。私は、ほとんど知識がなくてな」
「はい……お、お父様」

 当初は『歳三さん』と呼んでいたのだが……丁原の遺言を思い出したのか今朝方、何気なくそう口にした。
 慌てて真っ赤になり、しきりに謝ってきたのだが。
 ただ、呼び方は皆の自由に任せている。
 元々が我が娘同然に、と考えていた。
 それ故に月の好きに呼ぶように、と答えておいた。
 何度か呼んでは慌てるを繰り返していたので、詠が呆れ返るのみ。
 華雄はどうしていいかわからぬのか、右往左往していた。
 ……どうやら、やっと慣れてくれたようだが。

「并州は、大陸の北部に当たります。洛陽や長安にも近いですね。中心は晋陽という街です」
「ほう」
「また、異民族である匈奴に接している為、諍いも少なくありません。丁原おじ様はその点、彼らと上手く付き合っていたみたいです」
「風土はどうか?」
「決して、豊かとは言えません。冷涼なので、麦や蕎麦ぐらいしか育ちませんし、だから人もあまり多くはありません」
「ふむ。後は人材か……」

 丁原は、留守居の将は頼りにならぬ……そう言っていた。
 だが、全く人なし……と言う訳ではあるまい。
 仮にも、如何に朝廷の命とは申せ、この乱世に本拠地を空けているのだ。
 最低限、統治と治安に支障のないあたりにはなっている筈。

「月は、恋以外は并州の者とは面識がない……そうだな?」
「はい。刺史交替もまだ日が浅いですし、私に仕えてくれていた方々は、ほとんどそのまま、私の軍に来ていますから」

 私は振り向き、恋を見る。

「恋。留守居の将で、知っている名はないか?」
「……(フルフル)」

 ううむ、わからぬか。
 だが、丁原は并州に行けばわかる……そう言い残している。
 今際の際に、私を無意味に謀るような真似をするような人物とも思えぬ。
 第一、それでは月までもを危機に陥れる事になるだろう。
 そう考えれば、やはり誰かが、丁原の策を遂行している……そう考えるのが妥当。
 少なくとも、それだけの才覚があり、人望も備えていなければなるまい。

「お兄さん。どうやら、ご心配みたいですねー」
「……顔に出ていたか、風?」
「いえいえー。この程度、察するようでなければ。お兄さんの愛人は務まらないのですよ」
「へ、へう〜。 風ちゃん、大胆だよ……」
「ちょっと風! 月の前で、おかしな事言うんじゃないわよ!」

 また、いつもの騒ぎか。
 緊張感ばかりでは身が持たぬが、どうにも調子が狂う事がままある。

「稟。事前に、晋陽だけでも様子を探っておきたいと思うが……どうか?」
「御意。では、間諜を向かわせ、様子を探らせまし
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ