暁 〜小説投稿サイト〜
人理を守れ、エミヤさん!
業火の中に
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話




 冬を越え、春を迎え、夏を過ごし、秋を通り、そして二度目の冬となった。
 多くを語る舌は不要。重ねた勲を語る驕りも無用。
 迫り来る敵の骸を数える事に意味はない。女の劣化英霊はある時を境にぴたりと現れなくなった。
 状況が刻一刻と深刻化していくのを感じながらも、『人類愛』は雌伏の時の中で力を蓄え、そしてついに行動の(とき)へ移ろうとしていた。

()(ツラ)をするようになった」

 整列する二百名の精兵を見渡し、男は仄かに感慨深く呟いた。
 もし人間の年齢の如何に拘わらず、全盛期、最盛期と呼べるものがあるとするのなら、此の場にある全ての男達の全盛こそが今此の時であるのだと誰しもが感じていた。それは彼ら『人類愛』の領袖、ジャック・フィランソロピーと呼ばれる男もまた同様である。
 眼帯を撫でた。その下には琥珀色の肉眼がある。それは彼本来の瞳と同色だが、その本質は起源を異とする魔眼だった。愛用の眼帯には魔眼殺しの術式が編まれてある。今は懐に入れてある赤いバンダナを意識して、首に提げているダイヤモンドを一度握った。

「……よく堪えた」

 ポツリと呟く男の声は、彼らの耳朶を打つ。
 城内、城門の手前に在る兵士達に、以前の未熟さの残る青さは何処にもない。精悍な男の顔をしていた。
 男は背後に控える軍服姿のスカサハを一瞥もせず。静かに言った。

「俺はお前達を誇りに思う。お前達も誇るといい。辛く過酷な訓練を、よくぞ一人の脱落者も出さずに堪えきった。もはやお前達を未熟な兵士だと言うものはいない。この大陸に在って、お前達以上の兵士は何処にも存在しないと断言しよう」

 兵士達は喜ばない。単純な事実として受け止め、静寂の中に誇りを懐くのみ。
 矜持を懐く。それは賛辞に喜ぶのではなく、シンプルに認めるだけだ。その誇りを負い、自らを律するのが優れた兵士なのだ。

「『人類愛』は北米大陸最優の兵士を擁した。しかし思い出せ、俺達の目的はなんだ。単に生き残る事か? 相容れない天災が如き敵を打ち倒す事か? 是だ。それらは何も間違っていない。しかしもう一つだけ、俺達には使命がある。堅牢な砦を築き、何者にも抜けない防衛戦を張り巡らせ、《《極僅かな》》人々を保護した。生活するに困らない物資を蓄え、生きる糧を安定して手に入れ、外の厳しい寒暖から守られる家を得た。だがそれで終わりか? もう満足か? これには断じて否と、お前達なら答えると俺は信じている」

 その信頼は何も間違いではないと、兵士達から立ち昇る気炎が告げている。
 黙して語らぬ、しかしその瞳に宿る生命の炎は、今も爛々と輝いて使命感に燃えていた。
 男は頷く、心は同じだと灼熱の火を口腔に秘める。

「そうだ。今この時も悪逆無比の人類の敵は……無辜
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ