暁 〜小説投稿サイト〜
魚を釣って
第三章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後
「また一匹も釣れない日々が続きますか」
「釣れるかも知れんぞ」
「では占ってみてはどうですか」
「もういいです、釣れる筈がありません」
 わかっているという返事だった。
「ですから」
「いいのか」
「はい、それこそです」
 まさにと言うのだった。
「お盆に乗せやお水を溢してです」
「その水が盆に戻らない様にか」
「わかっていることです」
「随分なもの言いだな」
「それ位わかります、ですが」
「それでもか」
「兵法書が出ましたから」
 それならというのだ。
「あなたの占いは信じます」
「そうしてくれるか」
「では暫く釣りを続けて下さい」
「そのうえでだな」
「時を待たれて下さい」
「それではな」
「天下が乱れるなら用意をしないと」
 それはそれでとだ、妻はそちらに関心を向けていた。
「そうしてです」
「難を逃れるか」
「はい、只でさえ姜族は商から好まれていませんから」 
 族が違うからだ、それで妻もこう言ったのだ。
「ですから戦になれば何があるかわからないので」
「別にいてもいいと思うが」
「そうもいきません、ですがあなたは」
「占いの結果に従ってな」
 そのうえでとだ、呂尚は妻に答えた。
「ここで釣りを続ける」
「今度も占い通りになればいいですね」
「なる、しかしお前がそう言うならな」
「子供達を連れて安全な場所にいます」
「それで戦が終わればだな」
「戻ってきますが宜しいですね」
「それではな」
「ご無事で」
 妻はすぐに安全な場所に逃れる用意をして子供達を連れて街を去った、去った場所は夫に言われて周の都の少し西だった。そこには戦乱が及ばないと占いで出たからだ。
 呂尚は魚の腹から出た兵法書を何度も読み他の書も読みつつ釣りを続けた、そして遂に彼の傍に周公後に文王となる者がやって来た。全ては彼自身の占い通りだった。
 ここから呂尚、太公望と呼ばれる彼の働きがはじまる。呂尚は周の軍師かつ実質的な総司令官として商と戦い周が中国の主となることに貢献した、全ては呂尚が占いに従って釣りをはじめたことからだ。尚彼の妻は働かない夫に愛想を尽かして出て行き彼が身を立ててから戻って復縁を申し込んだがそれを断られ覆水盆に返らずの故事が生まれたと言われている、しかし当時の書の価値の高さと呂尚の識見の高さそして字を普通に読み書きが出来たから察せられる呂尚の地位や資産の高さから生活に困ったとは思えず夫が働かなかったことから愛想を尽かして出て行ったとは思えない。他に理由があったか実際は別れていなかったのではないか。そう思い妻とのことはこの様に書いた。真実は遥か昔のことでわからない、だが兵法書のことは中国の古書にある。実際の話とは思えないが面白い話と思いここに書いておくことにした。


魚を釣っ
[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ