風前の灯、少女達の戦い (前)
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第三特異点の不穏な様相を、人理継続保障機関フィニス・カルデアは、特に何事もなくモニタリング出来ていた。出来てしまっていた。
機能する通信。継続する観測。意味消失を防ぐため交代で続けられるカルデアの戦い。
何もせずただモニターを眺めるだけの自分達に後ろめたさのような、慚愧の念がないとは言えない。事細かに行き交う管制室の職員達の喧騒は本当に忙しなくて。美遊やイリヤスフィールはいたたまれない気持ちだった。桜だけは茫洋としていたけど。
それでも序盤の、黒髭エドワード・ティーチとの遭遇では笑っていられた。彼のキャラクター性もあり、緊張感もなく不運な人だなぁ、と。フランシス・ドレイクとの出会いでも、学校で習った! とミーハーな気持ちで気楽に構えていられた。
だがその直後から空気は一変する。敵サーヴァント、アルケイデスと名乗った復讐者の奇襲を受けて、カルデアの精神的主柱であった士郎が甚大なダメージを負ったのだ。
言語を絶する激痛に彩られた悲鳴だった。魂の壊れる断末魔だった。どんな傷にも呻き声ひとつ上げなかったという士郎が、人間の許容できる痛みの限界を遥かに超えるそれに絶叫していた。
レイシフトした者の存在を観測する職員の人が慌て、動揺する。観測している存在すら揺らぐ激痛の大海、神毒の侵食。魔術回路がズタズタに引き裂かれ、肉体が溶解し、計測している魂が破損していく。
その叫びには聞く者の精神を侵す猛毒がある。美遊が顔を真っ青にした。イリヤは吐き気がして、思わず耳を塞いでしまった。涙を流して桜がコフィンに入ろうとするのを、髑髏の仮面をした女の人が必死に抑え込んでいた。
悲鳴すら途切れると、管制員が呆然と呟いた。士郎さんが、死亡しました……と。精神死した、と。誰もそれを信じられなかった。特異点では戦闘が始まっている。やがてアルケイデスと名乗った敵サーヴァントの真名から、今のがヒュドラの神毒である事が判明した。
士郎が死んだ。そんな……と誰かが喘ぐ。イリヤは顔面蒼白で立ち尽くす。
だが初戦の戦闘で、アルケイデスを撃退するに至ったのは、死んだはずの士郎による反撃が切っ掛けだった。その後アイリスフィールの宝具でなんとか快復したはずの士郎だったが、聖杯ですら癒し切れない魂の状態が計測されている。
その後にネロが召喚した玉藻の前によって魂が修復されなければ、士郎は本当に死んでいただろう。いや、それまでに精神死を遂げていなかった事の方が驚くに値した。カルデアの機器すら誤認するほどに危うい状態だったのである。ロマニは周囲の強張った空気をほぐす為に、敢えて軽い語調で言った。
「さ、さすがは士郎くんだ。不死身の英雄ですら不死を手放して、死を選択する猛毒を食らっても生きてたんだからね」
応える者はいない
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