それでいいのか士郎くん
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進んだ先に、顕現した聖杯を仰ぎ見る。十年前に見て、破壊した運命を直視する。
そして、その下に。
いつか見た女の姿を認めて、俺は一瞬だけ瞑目した。
「先輩? どうかされましたか?」
まだ、マシュは気づいていないのだろう。鷹の目を持つ俺だから先に視認できただけのことだ。突然立ち止まった俺に声をかけてくるマシュに、口癖となった言葉を返す。なんでもない、と。
――目が、合った。
気のせいじゃない。黒く染まった騎士王が、黒い聖剣を持つ手をだらりと落とし、驚愕に目を見開く姿を見た時に、俺は悟っていた。
ああ。あれは、俺の知るセイバーなんだ、と。
理屈じゃない。『衛宮士郎』と絆を結んだセイバーじゃなくて、俺に偽られていた女なのだと言語を越えた部分で直感したのだ。
天を仰ぐ。なんて悪辣な運命なのか。もしここにセイバーがいたとしても、顔が同じなだけの他人として割りきり、俺は迷わず戦闘に入っていただろう。だが、なんでかここにいるのは俺のよく知る騎士王だった。
「……悪く思え。俺は、お前を殺す」
好きになってしまって。
でも、死にたくないからと偽って。
本当の自分を、ただの一度もさらけ出さなかった。
――シロウ。貴方を、愛しています。
その言葉は果たしてこの身の欺瞞を見破った上でのものなのか。彼女が愛したのは、『衛宮士郎』なのではないか。
怖くて聞けなくて。そして、何よりも。
生き残る為に『衛宮士郎』を成し遂げた達成感に、これ以上ない多幸感に包まれて、彼女を偽っていた罪悪感を忘れた俺に、今更会わせる顔などあるわけがなかった。
俺は『衛宮士郎』ではない。事実がどうあれ、俺はそう信じる。俺が『衛宮士郎』ではない証拠など何もないが、信じて生きていくと決めていた。
だから躊躇わない。黒弓を投影し、後ろ手に回した手でハンドサインを送ったあと、マシュに戦闘体勢に入れと指示を出した。
呪われた大剣、赤原猟犬を弓につがえる。決意を固めるため、言葉を交わすこともせず、俺はもう一度、自分に言い聞かせるために呟いた。
「セイバー。――お前を、殺す」
最低な言葉。
「お前が愛したのは、俺じゃない」
あの思いを、否定する。
「俺はあの時の俺じゃない」
愛した女への思いを忘れ去る。
「許しは乞わない。罵ってもいい。殺そうとしてもいい。だが殺されてやるわけにはいかないんだ。俺は死にたくない。こんな場所が俺の死に場所なわけがない」
なんて、屑。
「俺に敵対するのなら、死ね」
――心を固める。魂が鋼となる。
最後に、しっかりと言葉に出して、俺は宣言した。
「勝ちにいく。奴を倒すぞ、マシュ。俺と
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