暁 〜小説投稿サイト〜
思い付いたら書いてみる、気まぐれ短編集
風邪を引いた男
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[1] 最後
「うぅ……キツい」

 男はベッドの上で熱に魘(うな)されていた。幸いにもインフルエンザではないらしいが、熱が39℃近くもあるのでは起き上がる事すら億劫だ。大学に通うために始めた安アパートでの独り暮らしでは、こういう時が心細い。こんな時に気遣って尋ねて来てくれそうな友人も居ない。万が一の可能性にかけて、大学で出来た友人やサークルの仲間にLI〇Eもしてみたが、音沙汰はない。

「大人しく、寝てるしか無いか……」

 うわ言のように呟いて、男は気絶するように眠りに就いた。



 不意に目を覚ましたのは、『匂い』が漂って来たからだ。アパートの狭い台所の方からふわりと漂って来たのは、美味そうな出汁の匂い。それに同調するように、トントントン……とリズミカルに何かを刻むような音がする。明らかに、誰かが料理をしている。風邪のせいか節々の痛みを堪えながら身体を起こすと、ぱさりと額から湿ったタオルが落ちた。

「あぁ、ダメですよ〇〇先輩。まだお熱下がってないんですから」

 めっ、と幼子を叱るように此方を向いたのは、可愛らしい女の子だった。明るい茶髪のショートカットに、整った顔立ち。ミニスカートの裾からは、むっちりと肉感的な太股が覗く。と言ってもデブではない。むしろ出る所は出て、スマートな所はスマートなナイスバディという奴だ。

「き、君は……?」

「あ、私政経2年の胡桃沢 梨花子(くるみざわ りかこ)です、先輩っ」

 俺の事を先輩、と呼ぶという事は同じ大学の後輩か……ダメだ、頭がボーッとしているせいで上手く頭が働いていない。

「先輩はもう少し寝ていて下さい。もう少しで卵粥が出来ますから」

 これは夢なのだろうか?まぁ、夢だとしてもいい気分だし、寝ていて損はない。ここは大人しく寝ている事にしようと、男は再び布団の中に潜り込んだ。



「ふーっふーっ……はい、あ〜ん♪」

「あ、あ〜ん……うん、美味い」

 お粥が出来たらしく彼女に起こされた男は、まだ熱いだろうお粥を冷ましてもらいながら口に運んでもらう。病人に合わせたのか薄味でありながら、しっかりと出汁を効かせていたのでちゃんと味もする。その優しい味わいが、弱った身体を労ってくれているようで、その気遣いがこの上なく嬉しく感じる男。しかも美人の少女が自分に対して『あ〜ん』をしてくれるという状況が、これまでモテるという経験の無かった男の心を昂らせた。やはりこれは夢だろう、でなければこんな状況有り得ないとさえ思う程には。

「完食ですね、えらいえらい」

 年下に頭を撫でられるなど気恥ずかしい筈なのに、美しい少女に頭を撫でられると、満更でも無い気がしてくるから現金な物である。

「さぁ、汗も掻いちゃってますし、身体を拭きますから先輩は服を脱いで下
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