帰還の後に
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ハイネセンホテル・ユーフォニア。
一般人の立ち入りが規制された専用の車寄せ。
そこに背広姿の男女たちが立ち並び、九十度の角度をもって頭を下げていた。
立ち去る黒塗りの地上車の窓からは、老年の男性が赤ら顔をのぞかせていた。
見れば、それが自由惑星同盟の元首である同盟軍最高評議会議長であることが理解できたであろう。彼の乗った車両が見えなくなれば、続く車両から顔をのぞかせるのは最高評議会議員であり、財務委員長であったことがわかったはずだ。
次々と立ち並んだ男たちの前を通る車両。
それらは全て最高評議会議員であり、各部署の最高責任者である委員長が乗っていた。
最初に評議会議長が立ち去ってから、最後の車両が通り過ぎるまでは二十分ほどの時間をかけた。そのたびに、立ち並んだ男女は深々と頭を下げることを繰り返すことになるのだが、誰もその動作に対して不満を見せるものはいなかった。誰も入れないが――誰かが遠目から見ていたならば、あまりに機械じみた光景に失笑を浮かべたことだろう。
だが、その重要性を知らぬものはこの場にはいない。
赤ら顔で満足そうに見送った者たちであったが、心の中まで笑っているわけではない。
わずかでも油断を見せれば、出世の道が一瞬でかき消えることになるという面では、果たして軍人よりも厳しい環境ではないのだろうかと――背広を直しながら、ヨブ・トリューニヒトは自嘲した。
最も頭を下げるだけで、機嫌が良くなるのであれば、いくらでも頭を下げることは何ら苦ではなかったが。
イゼルローン要塞の攻略が失敗したとの一報が入った、当日の夜のことだ。
損傷艦艇は一万隻を下回り、死者数百万を下回った。
そう喜びを隠さぬように報告したのは、国防委員長であり、財務委員長と人的資源委員長が渋い顔を見せたが、多くの表情はその後の報告で喜色を浮かべた。
イゼルローン駐留艦隊に対しても同程度の損害を与え、イゼルローン要塞の第三層まで初めて打撃を与えることができたと報告があがったからだ。
過去に四度にわたって攻略を続け、その全てが大敗を喫したことに比べれば、遥かに良い結果であって、要塞が攻略不可能ではないと証明することができたというのが、その理由であったが。
単に負けといえば、近い選挙に問題があるからだろう。
くだらない話だと、トリューニヒトは心中で笑う。
行動を起こさなければ、一万隻の艦隊と百万人の人材が生き残った。
確かに敵に対しても同数の被害は与えただろう。
だが、人口と経済力では帝国と同盟では歴然とした戦力の差がある。
こちらが同数まで兵力や艦艇を回復する間に、帝国はさらに強大になることだろう。
だが。
トリューニヒトは、幹部たちが立ち去って上機嫌に笑う同僚たち
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