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歌集「冬寂月」
三十七

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 春の夜の

  梢にかする

   月影は

 遠く惑ひて

    人ぞ思わせ



 暖かくなった春の夜…透るような月明かりが、高い木々の梢に微かに触れているように感じる…。

 梢が揺れて戸惑うように落ちる遠い月の明かり…それを眺めると、なぜかもう会わないあの人のことを思ってしまう…。

 あの人は月よりもなお…遠くなってしまったようだ…。



 音を聞きて

  人のありしと

   思へども

 知る人もなき

     春の宵風



 街中の雑多な音を聞くと、人が多く行き交っているのだと分かる。

 こんなに人がいるのに、私の知る人は全くいない…寂しさは人恋しくさせるものだ…。


 なぁ、宵に吹き抜ける春の夜風よ…お前は寂しくはないのか…。




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