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Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
12話 望月麗(4)
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 亡霊対策室は騒然としていた。
 各部署でひっきりなしに電話が鳴り響き、廊下を慌ただしく職員が走り回る。
 それは司令室として例外ではなく、オペレーターたちは次々と舞い込んでくる解析結果に顔を青くしていた。
 事の始まりは数時間前に遡る。
 一三三五、九州沿岸に位置する高梨市から膨大なESPエネルギーが探知された。
 その大きさは一つの都市を丸ごと飲み込むほどの巨大なもので、多くのオペレーターを震撼させた。
 しかしその後の調べで、探知されたESPエネルギーは一つの亡霊を指すのではなく、ESPエネルギーの集合体である事が判明し、ただちに福島県沿岸部の全域に避難警報を発令した。
 ESPエネルギーの集合体とは、何の攻撃意思も持たない、単なるエネルギー体ということである。一般にそれは霧のようなものとして認識される。
 しかし、このエネルギー体が問題だった。
 白流島はESPエネルギーで構成された霧に包まれているが、調査に入った者で生存者は存在せず、島民全員も行方不明者扱いとなっている。
 高梨市一帯を覆うESPエネルギーは白流島と同様に霧状のもので、一度中に入れば生きて戻れない危険性があった。
 こうして避難警報が発令し、自衛軍による厳戒な警戒体制が高梨市一帯に敷かれたのが一六三〇のことだった。
 ここで神条奈々は一つの決断を迫られる。つまり、特殊戦術中隊を投入するか否か、である。
 ESPエネルギーに包まれた高梨市一帯との通信手段は全て途絶え、市民の安否が不明な状況に陥っていた。霧に包まれた街から脱出した者は一人もおらず、内部の情報が一切手に入らない状態だった。
 結局、神条奈々は待機の判断を下した。
 蔓延したエネルギー体での生存が確約出来ない以上、数の限られている特殊戦術中隊を投入する事は出来ない、と判断したのだ。
 統合幕僚監部、及び戦略情報局もこれを支持し、情報収集と通行規制による二次災害の抑制に留まる事になった。
「司令、高梨市に繋がる主要交通網の封鎖を陸上自衛軍が完了しました。引き続き、周辺都市への避難支援を実行中です」
 奈々の元へ加奈が報告に来る。
「航空自衛軍による生存者の探索も実行中ですが、未だに霧から脱出した生存者は見つかっていません。内部からのそれらしい音声も一切拾えない、と経過報告が上がっています」
「……白流島に亡霊が出現した時と同じ状況ね」
 奈々は空撮された高梨市の様子を見ながら呟いた。
「……白流島は第一基地に過ぎなかった。第二、第三基地が国土内にこうして作られていく可能性がある」
 最悪の想定を口にした奈々に、加奈が青ざめる。
「日本海上ならともかく、これでは亡霊が出る度に甚大な被害が……」
「本土決戦どころではない。この狭い
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