暁 〜小説投稿サイト〜
Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
7話 宮城愛(3)
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
のような扱いを受けている事があるが、彼女の実直な在り方はとても好ましく思えた。
 対策室に入ってまだ日が浅く、良く知らない人間も多い。組織構造もまだ全体がよく見えない。
 その中で宮城愛という人間は、最も信用出来る友人かもしれない。
 そう思った時、医務室のドアが開く音が聞こえた。
「あ」
 振り返る。
 ドアが開いたところには驚いた様子の秋山明日香が立っている。 
 短い沈黙があった。
「二人でお楽しみのところ悪いんだけど、医務室のベッドでそういうことは……」
「わーーー! 違うんです! 誤解です! そういうのじゃないんです!」
 恐ろしい誤解が広がる前に食い止めようと、手を振り回し必死に訂正する。
 しかし、背中に回された愛の腕が離れない。万力のようだった。
「ちょっと愛ちゃん! 離して! 誤解が! 壮大な誤解が!」
「青春ね」
 クスッと明日香が微笑む。
「少しからかっただけよ。誤解なんてしてないから安心しなさい」
 彼女はそう言って、優の前で屈み込んだ。
「体調はどう?」
「えっと、あの、もう大丈夫みたいです。ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」
 さっきのからかいを含んだ笑みとは一転、慈悲深い聖母のような笑みを浮かべる明日香。
 どうも調子が狂う。
「今日の訓練は休んだほうがいいわね。一応熱だけ計っておきましょう」
 明日香がゴソゴソと引き出しをいじり、体温計を優のわきに入れる。
「正直ね、心配だったの」
「え?」
 ぽつりと明日香がこぼした言葉に顔をあげる。
「ここ、女の子しかいないでしょう? 男の子がちゃんと馴染めるのかなって」
 優は少し考えた後、頷いた。
 確かに悩んだこともあった。
「そう、ですね。はじめの一週間とかは全然ダメでした。やっぱり皆と壁を感じて……」
 でも、と優は愛に目を向けた。
「でも、華ちゃんや愛ちゃん達のおかげで無事馴染めることができました」
 明日香が微笑む。
 そこで体温計がピピピと電子音を発した。
 明日香が体温計を取り出す。
「36.8度。大丈夫そうね。念のため、激しい運動は控えるように」
 明日香は体温計を引き出しに入れながら、思い出したように言った。
「それと愛。あなた朝食まだでしょう。優くんは私が診てるから食べてきなさい」
 愛は素直に頷いて戸口に向かう。
 その間、明日香は無言でじっと愛の背中を見ていた。
 愛が出ていったのを確認して、明日香が優に向き直る。
 何となく、大事な話があるのが分かった。
 明日香は少し迷ったように視線を動かして、それから何でもない風に口を開いた。
「さっきの話の続きだけど、ここは本当に女の子ばかりなの」
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ