暁 〜小説投稿サイト〜
Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
1話 宮城愛(2)
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 桜井優は今だかつて体験した事のない緊張感に包まれて昼食をとっていた。
 目の前には無表情で定食を食べる宮城愛。同じ第一小隊に所属する同僚だ。
 愛から自分の定食に視線を戻し、唐揚げを口に運ぶ。緊張で味が分からない。
「この唐揚げ、味薄くない?」
 話しかけてみる。しかし、意に返さず食事を続ける愛。
 会話が全く成立しない。
 大人しい、ではなく、無口、という言葉がぴったりな子だ。
 優は気まずそうな顔で、味が薄いどころか味のしない唐揚げを再び口に放り投げた。
 京子と愛の二人と昼食を食べる予定だったのだが、京子に急用ができた為、こうした気まずいシチュエーションができてしまった。
 心の中で京子を怨む。
「そういえば、宮城さんって何歳なの?」
 ダメもとでもう一度話しかけてみる。すると、愛の箸の動きがピタリと止まった。
「……十六」
 完全に無視する訳ではないらしい。
「…………後、愛でいい。苗字で呼ばれるのは好きじゃない」
 愛はそう言って、再び食事に戻った。
 名前で呼ばせるくらいなら、嫌われている訳ではないようだ。優が見た限り、愛は誰にでも無愛想である。
「愛……さん? 愛……ちゃん? どっちがいいかな?」
 名前で呼べと言われても逆に困る。一応、二通りの選択肢を並べてみるが、愛は構わず食事を続ける。
 優はむっと口を結んだ。無視されればされるほど意地でも喋らせたくなってくる。
「ここの食堂、美味しいよね」
「…………」
「……昨日のテレビ見た?」
「…………」
「…………ある男が友人にジグソーパズルを見せびらかした。普通にやれば三年かかるパズルを三ヶ月で完成させたってね。半信半疑でパズルの箱を見てみるとこう書いてあった。3yearsって。あ、うん。何でもないです」
「…………」
 心が折れた。
 色々話題を変えてみるも、全く食いついてこない。
 京子たちは彼女と普段どんな話をしているのだろうか。謎である。
「愛ちゃんの趣味って何?」
 とりあえず、食いつきそうな話が全くわからない為、向こうの趣味に合わせる事にした。
「……読書」
 それを聞いて、優は目を輝かせた。優も読書が趣味で、読むジャンルも幅広い。
「あ、読書なら僕も好きだよ。どんなの読むの?」
「……サイバーパンク」
「ジャンル狭っ!?」
 何だかもう駄目な気がしてきた。
 頭を抱える。
 京子はまだ帰ってこない。早く帰ってきて、と心の中で悲鳴をあげる。
 遂に限界を迎えた優は最終手段に出ることにした。つまり、向こうが反応せざるをえない状況を作ればいいのだ。少し罪悪感を感じるが、背に腹は変えられない。優は今、一世一代の悪事に手を染めようとし
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ