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Raison d'etre
一章 救世主
11話 広瀬理沙
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 漫画の上に数学と英語の参考書を積み、レジに向かう。少し高くついたが、既に給料が支払われている為に、さほど痛い出費ではなかった。
 会計を済ませて本屋を出ると、既に空は薄い赤に染まっていた。
 このまま帰るか、まだどこかで暇をつぶすか考えつつ、駅に向かう。
 秋特有の涼しい爽やかな風が心地よい。優は人通りの多い道を避け、少し遠回りしながらのんびりと歩いた。あまり知らない裏通りを歩くというのも中々面白い。
 少し肌寒い。厚着してきたら良かった、と後悔した時、不意に背後に何かを感じた。
 ――ESPエネルギー。
 背後で膨れ上がるエネルギー体から逃れようと反射的に前方に跳躍し、上体を捻る。
 しかし、それよりも早く優の背中を衝撃が貫き、優は地面に倒れこんだ。
 衝撃で喉から奇妙な音が漏れ、痛みに身を丸める。
「動くな」
 首に冷たいものが押し付けられた。すぐに刃物だと気付き、反射的に身体が動きを止めた。
 突然、ふわり、と場違いな甘い香りが優を包んだ。直後、背中に柔らかな重みを感じる。
 女。声と気配からそう判断してから、ESP能力者には男がいない事を思い出す。例外は優だけだ。
「桜井優だな? 動いたら殺す。抵抗しないなら危害は加えない。オーケー?」
 名前を知られていることに気付き、血の気が引いた。脳裏に数日前の取材のことが蘇る。既に何らかの形で情報の公開が行われたのだろう。
 優は女を刺激しないように、黙って頷いた。直後、乱暴に身を起こされる。
「手荒で悪いな。大人しくしてたら何もしないから安心しな」
 チラリと女の顔を見る。
 まだ若い十八歳前後の女だ。少し吊りあがった目で優をじっと睨んでいる。
「変な気起こすなよ。あたしもハーフだ。その気になればナイフなんてなくてもすぐに殺せる」
 ハーフ。ESP能力者の蔑称だ。亡霊と人間の中間。
 昔、同一説というものが流行った。人類史上初のESP能力者、柊沙織が発見された時に生まれ、今は廃れた風説。
 柊沙織は当初、人に擬態した亡霊ではないか、と囁かれた。ESPエネルギーは当時亡霊を構成する未知のエネルギー体として、亡霊の代名詞でもあった。故に、ESPエネルギーを持つ彼女は亡霊側の存在として誤った認識を受けてしまったのだ。
 そしてこの同一説にはいくつかのバリエーションがある。曰く、ESPエネルギーは空気感染する。曰く、亡霊はESPエネルギーに呑まれた人間のなれの果て。
 どれも根拠のない話だったが、圧倒的に情報が不足していた当時、この話は爆発的に広がった。
 もし、ESP能力者の数が多ければ、こういったデマはすぐに消えたかもしれない。しかし、ESP能力者の数は圧倒的に不足していて、大多数の人たちにとってESPエネル
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