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提督はただ一度唱和する
祈る者たち
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員が生き残れない。そのことを、背後にいる僚友たちがどこまで理解しているか。
 艦娘は戦い方を知っている。どのように敵を倒すのか。それで悩む艦娘はいない。
 しかし、艦艇の生まれ変わりを自称する彼女らであっても、自らが戦略兵器であると自覚している者は少ない。潜水艦一隻の存在が、どれほど海上輸送を危険に晒すのか。国威を賭けた戦艦を撃破し得る水雷戦隊が、いかに脅威であるのか。後にまで地位を盤石とする空母たちですら、戦場での立ち回りを重視する。
 仕方のないことだ。彼女らは兵器としての経験しかないのだ。自分たちの存在が、世の中に対してどのような影響を与えるかなど、思いもよらないのだろう。提督と艦娘という、閉じた関係の中で満足してしまっている。
 しかし、それではどこまで行っても兵士でしかないのだ。曹として取りまとめることは出来ても、士官として導くことは出来ない。
 海軍は一度壊滅している。いや、日本そのものがめちゃくちゃになったのだ。再生し、戦前と同じ国体を装っていることが奇跡なのだ。そのような状況の中で、深海棲艦という不可解な敵を相手に、妖精さんという理不尽なものと交渉し、艦娘という不完全なものを運用する。そんな士官を育てねばならない困難とはどのようなものか。
 守原は艦娘に丸投げすることで、その問題を棚上げした。それ自体は間違いではない。艦娘が既存の軍人のようには教育出来ないとはいえ、あちらこちらに目を瞑れば士官に相応しい見識を得られることはわかっている。代表的なのは初期艦と呼ばれる五人の駆逐艦だろう。
 それぞれが軍人としては問題だらけの人格だ。しかし、今では艦隊運営や艦娘運用の原型として、すべての提督の元に派遣されている。彼女らがいたからこそ、提督が素人のままでも戦えたのだ。
 問題は、そこまでの見識を備えた艦娘は、提督から自立してしまうということだ。初期艦が靖国に身を捧げたのは、彼女らの提督の死後である。
 軍人を教育する上で、絶対的に必要な要件は、上の命令に従うという倫理観を刷り込むことだ。でなければ、運用する側は常に反乱に怯えねばならない。誰もが死にたくない。だが、それでも死ねと命じるのが軍隊だ。
 そうして教育を受けた士官の前に、「まあ、頑張りなさい」などと宣う部下が現れたら、それを許容出来るだろうか。深海棲艦を助けたいと言われて、その心得違いを糾すではなく、その優しさと純粋さを賞揚する選択は、果たして可能か。一見すると無様にも見える仕草や立ち振る舞いも、軍隊では許されないことだ。
 当然だが、ご主人様呼びは、なんとしてでも必ず修正せねばなるまい。提督と艦娘は反目しあうか、でなければ戦力として期待出来ない水準にまで、能力を低下させることになるだろう。
 つまりは提督も艦娘も、もっとも重要な軍人教育が施せないことになる。その上で
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