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提督はただ一度唱和する
祈る者たち
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、救援した軽空母はそのまま戦力として期待出来るだろう。問題はどのようにして時間を稼ぐかだ。
 陸上にあっては、舗装路でない限り深海棲艦の移動速度は脅威にはならない。だが、例え駆逐艦であってもその砲射程は二〇q近い。航空優勢を奪われた状態では、危険過ぎてあらゆる行動が阻害されてしまう。
 だが、横須賀は現状でも航空優勢は獲れると確約した。それを信じるのであれば、追撃する快速部隊をどうにかすればよい。
 能取岬を迂回する段階で砲撃を加え、能取湖湖口で阻止する。そのように単純にすめばよいが、揚陸地点は無数に存在する。おそらく岬を迂回する段階で分派し、網走湖の制圧を目論むだろう。網走湖に続く網走川は、大きく蛇行している。扶桑、山城、愛宕は、網走湖にてこれの迎撃に全力を注ぐよう求められた。
「能取湖湖口は確かに狭隘ですが、非常に短く、また両端が砂浜で揚陸も容易であります。逃げ込むには都合がよいのですが、迎撃には向きません。しかし、網走川なら三隻の火力でも追撃する深海棲艦を殲滅出来ます。また、天都山、呼人半島が視界を塞ぐため、反撃も受けにくくあります。大湊にはこちらに集中して頂きたい」
 完全に船として数えられた艦娘たちのこめかみがひくつく。それぞれがあり得ぬほどの美人だ。若菜以下、陸軍士官は腰が引けている。吹雪は千早を抱きしめて震えていた。反対側に漣がいる理由は不明だ。
「じゃあ、能取湖に向かったヤツらはどうすんのよ」
 押し殺した声で瑞鶴が質問した。新城は礼儀正しく彼女に向き直り、虚空見つめて答える。
「はっ、こちらで対処いたします」
 瑞鶴のツインテールが逆立った。
「巫山戯んじゃないわよ!! あんたら陸軍に何が出来るってぇ!?」
 鳳翔が止めるまでもなく、愛宕が彼女の首っ丈を掴んで引いた。瑞鶴は暴れるが、声が出ないようだ。顔を真っ赤にしている。愛宕はそれを愛おしそうに眺めている。陸軍が艦娘を嫌うように、艦娘の方でも陸軍を嫌うことがあるのだ。
 もっとも、彼女の好悪など関係なく、疑問ではある。しかし、新城は平然としたものだ。
「完全に、完璧に無力化してご覧に入れます。まったく、ご心配はいりません」
 ここまであからさまでは、瑞鶴も呆れる他なかった。軽く咳き込むだけで、もはや何も言い返す気が起きない。陸軍士官たちはそれぞれの方法で、神仏と新城を呪う。
「他にご質問がなければ、各自、出撃準備に入りたいと思いますが?」
 異論はなかった。艦娘たちが新城に流し目をくれながら、退室していく。まるで刃のようであったが、新城の面の皮を空しく滑っていった。
 部屋の片隅では、腰が抜けたのか駆逐艦が二隻、へたり込んでいた。二人に対して、新城は飛びっ切りの笑顔を見せた。陸軍士官たちはそれぞれの方法で、彼女らの冥福を祈った。
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