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提督はただ一度唱和する
過ごした時間
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「ちょっとええか、第五の」
「おお、第二の。殿か?」
 苦笑しか返せなかった。自分の分身。文字通り魂を分けた存在であるが、話が早過ぎて言葉もない。比較的穏やかといえど、この季節の海である。駆逐艦と並ぶ体躯の彼女らは、仲の良い双子のように寄り添った。
 おそらくは感謝すべきなのだろう。今、この瞬間に湧き上がる気持ちさえ、置き去りにする仲間への免罪符になる。だがそれは、しくじりを犯した指揮官に許されるものとは思えなかった。例えそれが、軍規に裏付けられたものでなくとも。
 オホーツクの凍てつく海で、彼女らは当たり前のように戦い、当たり前に負けた。わかりきった運命の中で、この身を捧げても目的を果たそうと息巻いていたのに、定められた運命などないと、あの世への道のりを閉ざされた。今は惨めに駆り立てられ、生き残るためにもがいている。
 皮肉にしても、酷い顛末だ。
「考え過ぎんなや。分散したかて、この頭数や。全滅しとらんのは、間違うなくアンタの手際やで?」
 慰められたいわけでは無いなどと、我が儘を言えればどれだけ楽か。やれるだけやったと、胸を張れればこんな気分で話をしていない。押し付けられた状況で行動を強いられながら、さも自分の意志で下した決断だと思い込んだ。
 彼女らが顕界した当時とは違うのだ。深海棲艦とて、無策ではない。航空隊の援護無しに水雷戦隊を突っ込ませるのは、もはや特攻ですらないただの自殺である。であれば、たった五個しかない軽空母の艦隊で、空母を中心に編成された大艦隊と殴り合うことは必然だった。こうなることもだ。
 見渡せば、無事な艦娘は一人もいない。服ははだけ、肌は青黒く染まっている。自力航行が出来ているのは、出来ない者を置いてきたからだ。風の音と波飛沫にどれだけ耳を洗われても、一人は厭だとか細く訴える声が払えない。
 ただ負けるだけならよかった。それならばこの光景にも耐えられたのだろうか。
 損害は八名。一個艦隊、六名には駆逐艦の真似事をさせた。彼女らは散々に追っ手をかき回し、艦載機を失っても逃げ回り、最期は追い詰められて嬲り殺しにされた。お陰でこちらへの攻撃は鈍り、損害は抑制された。あと一戦であれば、戦えるだけの余裕もある。
 どうすればよかったのか。この問いに答えはない。だが、多かれ少なかれ、艦娘全てが根源的に抱えている疑問だ。時に酒のように甘美に、彼女らを酔わす。贅沢な一瞬だった。
「やるなら、あんたかうちしかない。うちは無理や。指揮官やからな。やから、キミに死んでもらう」
「強い言葉を使うなや。弱ぁ見えるで?」
 まあ、流石に突っ込んでもよかろう。剥き出しの脇腹を突けば、色気のない悲鳴が上がる。思えばずいぶんと長い付き合いだ。提督が徴兵によって増える前は、余所の提督と連携するなどざらであった。いつから歪んだのか。考えてい
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