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提督はただ一度唱和する
残酷な現実
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 深海棲艦にはいくつもの謎がある。何故通常兵器が通用しないのか。通用する兵器との違いは何か。そもそも生物なのか。どのように殖えるのか。雄は存在するのか。何故人類に恨みをぶつけるのか。目的や戦略があるのか。
 わからないならばわからないなりに、知恵と工夫で何とかしてきたのが人類だ。
 壊滅する直前の海軍は、鈍重なイージス艦からジェットスキーに乗り換えて、銛と体当たりと運転技術を武器にして戦っていた。場合によっては救命艇に分乗し、オールを叩きつけて対抗していたのだ。
 陸軍ならば利用すべき要素はさらに豊富だ。撃たれないため、狙われないため、そも見つからないため、苦労はしても、何も出来ないわけではない。
 だが、いくら知恵を絞り、工夫を凝らしてもどうにもならないものがある。彼女らが、大砲を抱えた艦船であると言うことだ。地上で運用するには面倒極まりない巨砲を、彼女らはいとも容易く運用する。そして海の上も、陸上も埋め尽くし、走り回るのだ。悪夢と言う他ない。
 例えば、一般的な主力戦車と、駆逐艦を比較するといい。彼女らの持つ砲の口径がおよそ一二・七p程。対して、戦車の主砲は一二〇o。陸と海では、基準となる単位から違うのだ。いささか特殊過ぎることを別にすれば、そもそも彼女らに対抗出来る手段など限られていることが分かる。彼女らを前にすれば、おおよその人工物は無事では済まないだろう。
 それでも人類は戦ってきたし、日本人は日本国民であり続けてきた。艦娘の手を借りれど、一時期の平和すら実現したのだ。
 それでもどうにもならない。深海棲艦が、文明の破壊者だからだ。
 よくよく考えて欲しい。
 戦車はもちろん、要塞すら意味喪失するほどの火力を発揮する集団に対して、銛やオールが何故対抗手段になるのか。妄想と嗤われようと、巨大ロボットでも開発してみせる方が、前装式の小銃を抱えて突撃するよりも、余程現実的ではないのか。相手はかつての戦略兵器なのだ。
 では何故か。本当に謎である。悪意すら感じる事実ではある。だが間違いようのない現実として、彼女らの砲は生物に対して、効果が限定的なものに留まるのだ。
 不公平なことに、全く効かないわけではない。直撃すれば関取に体当たりを食らう程度には危険だ。もはや事故ではあるが、砲撃を受けた被害ではないし、一撃で死傷する事例も少ない。しかも、この程度で済むのは純粋に人体のみで、衣服や装備は目も当てられない様になる。更に、人体への威力というのは、ある程度強弱がつけられるらしいことが、とあるセクハラ提督の研究で明らかになっている。
 全くもって恐ろしい。
 見苦しいという意味ではない。人間が、その積み重ねた技術や文明を捨てて直接対峙する以外に、対抗策がない点が、震えるほど恐ろしいのだ。
 深海棲艦には謎が多い。深海から発生していること
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