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提督はただ一度唱和する
鉄屑の勝利
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上の市民が残っていた。周辺の陸軍は誘導のための少数を除き、大部分が大楽毛周辺に展開。阿寒川からの遡上を阻止するため、準備を始める。新釧路川、釧路川の河口は、艦娘が担当した。
 同時に、阿寒川、仁々志別川を、艦娘が曳く喫水の浅いゴムボートなどに老人、子供などを乗せて運搬していく。その他の避難民たちは道路を避け、畦道同然の農道を行くことになった。混雑を抑制し、分散することで、被害を軽減するためだ。
 艤装に火を入れた深海棲艦は、道路上で時速六〇qもの速度を誇る。泥濘と化した田畑は、足止めにもなるだろう。
 絶望的な逃避行だった。陸軍と海軍のすれ違いがなければ、既にほとんどの市民が安全な海上に脱出できていたはずだ。海軍が護衛を用意しないと知っていれば、曳航に必要な艦娘だけで順次出航させる決断も出来たはずだ。
 全てはもしもの話で、避難民の最後尾が未だに港で座り込んでいる状況で、彼女らはやって来た。警戒を遥か海上の迎撃艦隊に任せ、全力で避難支援をしていた艦娘が、振りまいていた笑顔を凍らせる。そして、ボートに乗せようと抱えていた老人を陸に放り投げた。
「何を!」
「走って!! 速く逃げて!! みんな、来、た、よーっ!!」
 その報告に反応出来たのは艦娘だけだ。曳航を中止し、続々と集結していく。駆逐艦が多い。今すぐ逃げ出すべき、幼い少女たちの集団。
 視線の先では、僅かながらでも囮になればよいと、ゆっくり沖合いに向かう大型貨物船。それが、
「航跡見ゆ!! 正面!! 数は・・・・・・!!」
 海面に浮かぶ建築物。見上げるようなそれを呑み込む水柱。一本、二本、三本で横転。十隻以上、視界いっぱいで起こる現実離れした光景。火を噴き、折れ曲がり、沈んでいく巨大な船。
「防御射撃ぃーっ!!」
 それで終わらない。可愛らしい甲高い声と、腹に響く奇妙に軽い炸裂音。波間に見える白い線が、真っすぐにこちらに近づいて、その合間に吹き上がる小さな水柱。それらは埠頭に突っ込んで、爆発する。
 悲鳴と足音が、起きた。軋みをあげて沈む船の断末魔が、それを圧する。誘導のため歩哨に立っていた陸軍が、人ごみをかき分けて集結しようとする。
「敵艦、真下だ!! 爆雷急げ!!」
「持ってないしぃーっ!!」
「じゃあ、魚雷投げろ!!」
「ここじゃ浅すぎます!! 爆雷待って!! 近接射撃戦用意!!」
「まだ人がいるのに撃っちゃっていいの!?」
「殴り合いだぁー!!」
 言いつつ、雷撃で抉られた部分を守るべく、水上を走る。水面から浮かび上がる真っ黒な頭に、射撃が集中。油と鉄片をまき散らす。
「河口周辺を制圧射撃!! 遡上だけはさせないで!!」
 砂に足を取られながら、よたよたと上陸していく深海棲艦。鯨に似たシルエットの、薄汚れた艤装。気味が悪いほど真っ白な肌。青く光を放つ目
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