暁 〜小説投稿サイト〜
碧い銀河
銀河帝国、ホルスト・ジンツァー大佐
最高の評価

[8]前話 [2]次話
 ローエングラム侯爵は唐突な告白に驚き、一回り年上の訪問者を凝視。
 蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳が瞬き、名状し難い感情に彩られた。
 僕と敬愛する直属の上司、キルヒアイス提督の眼前で。
 ヤン提督に劣らず、真摯に応えた。

「率直に言って、俺には理解し難い。
 今の感想を聞くまで、卿は俺の野望を阻む最大の障壁と考えていた。
 いや、正直に言おう。
 俺よりも《上》だ、と痛感させられたよ。

 多少の言葉を交わしたに過ぎぬが、卿の人為(ひととなり)は理解出来たと思う。
 上手く言えぬが、卿は俺より一段上の階梯から物事を俯瞰している気がする。
 或いは俺と同じ種族に属し、更なる高処に上る機会を得た者ではあるまいか?
 心理学に通暁し歴史の造詣も深く、俺を凌ぐ叡智と感じ畏敬の念を覚えた。

 優れた戦略家の印象と最前の言葉は懸け離れ過ぎ、心理戦の罠と勘繰りたくもなるがね。
 敵の巣窟に単身乗り込んだ卿が虚偽を弄し、奸計を仕掛けるとは思わないな。
 姉を奪われた俺は暗愚な皇帝と取り巻きの門閥貴族、ゴールデンバウム王朝を倒すと誓った。
 自由惑星同盟の現状、最高評議会の腐敗を熟知する卿に賛同を求める気は無い。

 卿と俺は案外、同じ(カード)の裏表なのかもしれない。
 俺は《闇》を見つめ続け、卿は《光》を見つめ続けた。
 《光》とは人間に対する希望であり、《闇》とは人間に対する絶望だ。
 未来への希望を喪わぬ卿の剛さ、心理学的な魔術(マジック)に魅せられたと言う処かな?

 先刻の告白は韜晦や偽り、心理的術策の類とも思えない。
 心に染み入る、とは言わぬが妙に感情を揺さぶられた。
 賛同する訳ではないが、否定する気も無い。
 民衆を搾取して肥え太る門閥貴族共と比べれば、嫌いな考え方でもないからな。

 自由惑星同盟は銀河系統一の障害、門閥貴族共の後に討滅と考えているがね。
 帝国の掃除を邪魔せず、卿と改めて会談の場を設ける条件で武装中立を認める。
 有意義な会談だったが、最後に、聞いて置きたい。
 卿が同盟から受け取る総額の数倍、帝国紙幣の年金を受け取る気は無いか?」


 ローエングラム侯爵は有能な人材を集め、元帥府の強化を図っている。
 ヤン提督にも破格の待遇を囁き、相談相手として留まる事を熱心に薦めた。
 天文学的な金額の受領も可能、と署名入りの誓約書を見た賓客は髪を掻き毟ったけど。
 高く評価して貰った事に感謝の詞を述べ、丁重に辞退して風の様に去った。

 ユリアン君から、後で、聞いたんだけど。
 不敗の魔術師は要塞に戻った後で、ぼやき捲くったんだって。
 ああ、なんて、馬鹿な事をしたんだろう!
 誘惑に負けておけば、夢の様な年金生活が待っていたのに!、ってね。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ