暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
第97話 花火と矢村と帰る場所
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
う。矢村の前……だからなのか?

「そんなことばっかりだけど……こうしてここに来て、またお前と花火で遊んでると……昔に戻ったみたいな気がして、正直、安心してる自分がいるんだ。明日の事情とか考えてみたら、俺の方がよっぽど遊んでる場合じゃないんだけど……でも、必要なことだって気がするんだよ」
「龍太……」
「――なんていうか、その、安心するんだよ。やっぱり。着鎧甲冑とか『新人類の身体』とかコンペティションとか、いろんなことに囲まれてても……俺はやっぱり、松霧町の一煉寺龍太なんだ、って。何があっても、俺はここに帰ればいいんだ、って、そんな気分になれるっつーかさ……」

 ……もう、完全にコントロールが効いてない。俺は、何を言おうとしてるんだろう。しかも、止まる気配はまるでないけど……それが「ヤバい」と感じてはいない。

「だから、さ。ここにお前が居てくれて、良かったって思ってる。お前がここに居てくれたから、俺は俺でいられてるんじゃないかって、そんな感じ。つーわけで……まぁ、ありがとう」

 ――そして、口をついて出た言葉を自分自身で確かめた時、俺はようやく「全部の気持ちを吐き出せる」くらい、矢村のことを信じている自分に気づくことができた。

「……あ、あ、う……」

 彼女はそれに対して、どう反応するべきか迷っているのか――これ以上はないというくらい顔を紅潮させて、視線を泳がせている。
 俺はそんな彼女が可愛らしくてしょうがなかったのか――無意識のうちに頭を撫でていた。黒く艶やかなセミロングの髪が、月明かりの中でふわりと揺れる。

「ひゃん……!」

 子猫のような高い声を上げて、気持ち良さそうに頬を染める彼女の姿は、さながら付き合い始めたばかりの恋人のようだった。俺が恋人のポジションに立つには、いささか力量不足ではあるが。

「さて。じゃあ用事の途中だったし、俺はそろそろ行くよ。花火、使わせてくれてありがとな」

 俺は灯を失った花火を、用意されていたバケツの中に放り込むと、すっくと立ち上がって踵を返す。
 いつまでもここにいたい、という気持ちもあるにはある。だが、俺にやらなきゃいけないこと、行かなきゃいけない場所があるのも事実だ。

「それと、後で救芽井にも会ってみる。教えてくれてサンキューな」
「う、うん……」

 彼女が帰る場所なら、いつかそこへ帰ればいい。それまでは、戦おう。

 その時、ねずみ花火に翻弄され尽くしてゼェゼェと息を荒げていた久水と、そんな彼女の頑張る姿を見て悦に浸っていた(?)四郷も立ち上がり、こちらへと視線を向ける。

「あっ、りゅ、龍太様……明日のコンペティション、はぁ、はぁ、が、頑張って下さいまし……ひぃ、ひぃ、ワ、ワタクシ、全身全霊を込めて、お、応援しますわぁ……」
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ