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フルメタル・アクションヒーローズ
第96話 逡巡と懺悔と後悔と
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だ。
 ……どういう、ことなんだ……?

 俺がその意味を問おうと口を開くよりも速く、彼はこちらを静かに見据えて、語りはじめる。

「助けるか、助けないか。どちらにもメリットはあり、デメリットもある。助ければ再発のリスクは抱えるが、背負う使命は全うされる。助けなければ使命に背くが、再発の可能性は完全に消え去る」
「使命って……。助けようって選択は、俺が決めたことです。別にそんな大層なモンじゃ――」
「同じことだ。動機が救芽井家の信条や少林寺の教えに基づく『使命』であろうと、君自身の『意志』であろうと、行為自体の内容は変わらないだろう。助けるという行為に至る動機には、意味はない。見返り目当てであろうと、実益として人の助けになれば礼は得られるように、な」

 経験を積んだ大人というのは、こうまでドライな存在なのだろうか。俺の主張を「意味がない」と一蹴すると、何も言われなかったかのように話を再開してしまう。
 これだけ冷たい言い草だというのに、口調そのものは穏やかさを崩していない。些細なことかも知れないが、俺にはそれが不気味に感じられてならなかった。
 ――俺の知らない「世界」が、彼の中で広がっているように見えたから。

「――君は二つの選択の中で、助ける道を選んだ。それで不幸になる人間が出る可能性を考えずに、だ」
「そ、それは……」
「だが、それを悪い決断だとまで言うつもりはない。自分の味方が抱える想いや、自分という存在を成す概念を守ろうとする。その信念は素晴らしいものだ。だが、それは一方で危険なリスクを生む、もろ刃の刃であることを忘れてはならない」

 そう語りながら、伊葉さんは未だに串を持ったまま、遠くに立っている瀧上さんへと視線を送る。その眼差しには、瀧上さんと同様に、この世界とは違う場所を見ているかのような、手の届かない何かへの、儚さのような色があった。

「曖昧にせず、何かをはっきりと選ぶのは良いことだ。だが、それは全てのメリット、デメリットを把握した上で悩み抜き、最後の最後で結論を出す場合に限る。君のような若さに溢れた者が、いくら全てを見極めようとしても、どこかで必ず『粗』が出るだろう。その結果として生まれる悲劇を、人は『独善』と呼ぶのだ。君がその答えを決めるには、いささか早すぎる」
「……だから、『わからない』のが正解だと……?」

「その通り。若いうちから決めた答えを後生大事に引きずり、何が正しいかで悩む道を放棄した人間に正義はない。無論、正義を持たないのは私も同様だ。人が一生の内で、『何が正しいか』による『悩み』と『決断』を、天寿を全うする瞬間まで永遠に繰り返す。それが、私の信じる『正義の味方』の姿なのだからな」

「……正義の、味方……」

 夜空を見上げ、絞り出すような声で呟く彼の姿は、ま
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