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フルメタル・アクションヒーローズ
第90話 森の中の変態
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チの裏手にあるこの小さな林は、思いの外、快適な環境にあった。程よく陽射しを阻んでくれるおかげで、避暑地にも持ってこいみたいだし。

 しかし、あの人影の主らしき姿は一向に見つからない。もう林を抜けて、どこかに逃げたのか?
 ――いや、多分そんなの無理だ。この林は、ビーチと崖に挟まれる形になっている。この先に逃げたって、崖に行き止まるだけだ。
 崖をよじ登れば、俺達が来る時に使った道路の辺りまでたどり着くだろうが……正直、そんなことをしたら四郷や他の皆からは丸見えだろう。

 わざわざこんな逃げ場のない場所で、誰がコソコソと何を見ていたんだ……? ただの美少女目当ての盗撮マニアにしては、時と場所がピンポイント過ぎる。

 ――やっぱり最初に睨んだ通り、アレは「俺の知ってる人」だったのか……?

 思案に暮れるうち、俺は木の幹に背中を預け、翡翠色の天然パラソルに阻まれかけている、コバルトブルーの空を見上げた。草を掻き分ける際にできた擦り傷がヒリヒリと痛み、俺は思わず腕をさする。

「……人の気も知らないで、蒼く晴れ晴れしく広がりやがって。たまには俺の気持ちに便乗でもして、曇ったらどうなのよ」

 ――などと、バカンスには似つかわしくない愚痴を垂れるくらい、俺は疲れてるらしい。「必要悪」の件もあるのに、これ以上正体不明の人影なんぞに振り回されたくないしなぁ……。

「――ま、今回はアッチの件より察しも付きやすいし、まだマシってことにしとこうかな。……もう随分と時間も経ったし、手ぶらだけどそろそろ帰るか」

 これ以上悩んでも探しても、恐らく得られるものはあるまい。林の中一帯をあらかた探しても、痕跡一つ見つからない辺り、向こうもそれ程バカではないのだろう。

 ここは一旦退却あるのみ。そう判断し、木から背を離した瞬間――

 ガサッ!

「――誰だ!」

 刹那、俺は「腕輪型着鎧装置」を構えて臨戦体勢に入る。眼前では、俺の身長並に高い草が何者かの侵入を知らせるかのように、ガサガサと音を立てながら揺らめいていた。
 人影の正体か? そっちから会いに来るとは、何が狙いだ……!?

 茂みを揺らす音が次第に大きくなり、頬から顎へと嫌な汗が伝う。草から出てきた瞬間に攻撃される危険に備え、ジリジリと木の幹に隠れるように後ずさる。
 そして、ついに茂みから――人の手が飛び出した!

「ッ! ……って、あれ?」
「ぷはぁっ! あーもぅ、ここに来るだけで汗だくになっちゃう。……あらっ!?」

 だが、その白く細い手は、俺の予想を大きく裏切るものだった。出て来たのは三十代後半のオッサンどころか、灰色のパーカーを羽織った、ビキニ姿の救芽井だったからだ。
 俺はすっかり脱力してしまい、再び木の幹にもたれ掛かってしまう
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