暁 〜小説投稿サイト〜
SAO−銀ノ月−
曇天
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かけたものの。母は虹架から目を離して、返答することもなく部屋の扉を開けていた。

「お母さん!」

「やめて。昨日も言ったとおり……だから」

 それだけ言い残すと母は虹架の部屋から出ていき、そのまま家の扉が開閉する音が聞こえてくる。どうやら仕事に向かっていったらしく、虹架はため息とともに再びベッドに横たわった。もちろん二度寝をするためではなく、枕元に置いてあった《アミュスフィア》を装着するためだ。

「……リンク・スタート」

 起き抜けということで、まずは色々としたいこともあったが、それらすらも後回しにして虹架は《ALO》へとログインしていく。少々の待ち時間とともに、風景は妖精境へと変質していき、自らの身体も《枳殻虹架》から鍛冶妖精の《レイン》へと入れ替わっていく。

「ふぅ……」

 ひとまずはアバターの身体を自身に慣らすように、手足を動かして調子を確かめる。かの浮遊城のデータを流用したために、姿見に映る姿は見る人が見れば現実の姿と同じだが、虹架の亜麻色と違ってレインは燃えるような真紅の髪色となって、どことなくメイド服を思わせる軽装鎧を身につけている。そんなお気に入りのコーディネートとともに、先日ログアウトする際に使った宿屋から出ると、彼女との待ち合わせの場所である隣のカフェテリアへと足を伸ばす。

「紅茶を一つ」

 イグドラシル・シティの隠れ家的なカフェテリア、という触れ込みの通りに、朝という時間もあってか他に来ている客は多くない。そんな触れ込みと同等に、美味しいと評判のレアチーズケーキも頼みたいところだったが、現実で何も食べていないのにこちらで食事をすると非常によろしくない状況になる。最悪は栄養失調になってしまうと、レインはなんとか誘惑を断ち切りながら紅茶を口に運んで待ち合わせの相手を待てば。

「お姉ちゃーん! お待たせ!」

「そんな慌てなくていいよ、七……セブン」

 カフェテリアの入口が勢いよく開くとともに、そんな元気な声がレインに放たれた。久々に会うことになったものの、まるで変わりはないようで、レインも安心したように七色へ――最愛の妹へと微笑んだ。

「よくないわよ、久々にお姉ちゃんと会えるっていうのに。場所まで探してもらって、しかも待たせるだなんて」

 まさか目覚めてから五分も経っておらず、わざわざ昨日にこの近くでログアウトしたので、早いのは当然だったが。もちろんそんなことが言える訳もない……主にレインの見栄の問題で。

「それくらいは、お姉ちゃんに甘えてもらっていいの!」

 七色・アルシャービン――セブン。レインが幼い頃に離婚した父方に引き取られた妹であり、今や世界的に有名なVR空間についての研究者であると同時に、アイドルとしての活動も行っている。そもそも父母の離婚
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