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SAO−銀ノ月−
曇天
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ーチラスくん」

 幼い頃から引っ越しを何度か繰り返してきたレインにとって、気心が知れた幼馴染みというのはそれだけで羨ましく。しかもノーチラスからユナへのバレバレな好意ともなれば、少しはレインもからかいたくなるものだ。

「それじゃあノーくんの合格祝いに、どこか美味しいものを食べに行こっか!」

 デスゲームという環境で友人が出来て、救われていた時期の夢。いつか大勢の前で歌を歌いたいと、無邪気に夢を語っていた少女は、仲間を守るために死んでしまったという悪夢。だからレインは、ユナが叶えられなかった願いを叶えなければ、と、強く誓ってしまう。

 大勢の前で歌うというユナの夢は、今やレインの夢となっていた。そうして託されたにもかかわらず、まるでその夢は呪いのようで――

 
「虹架! 虹架ー!」

  ……そこでレイン――虹架は、夢から微睡みへと段階的に目を覚ます。誰かが自分の名前を呼んでいるような気がして。

「ん……んん……」

 枳殻虹架は、朝が苦手なようで得意なようで苦手だった。どうしてそんなややこしい話になっているかと問われれば、友人と泊まり込みの合宿や遊びに行った際には、誰よりも早く率先して起きられる自信があった。そうして他の友人たちを時間通りに起こしてやれるのだが、そういった友人たちがいないとさっぱりだったからだ。

「……朝に起きるんじゃないの?」

「あっ!」

 呆れ気味な母の声に、遂に虹架はベッドの誘惑から抜け出した。毛布を投げるように起きると、わざわざ部屋まで起こしに来てくれた母の顔が見上げられる。今日のアイドルとしての仕事は午後からだったが、午前にも大事な用がある、といった世間話を覚えていてくれたようだ。

「お、おはよう……おかあさん」

「……それじゃ私、仕事だから。昼間に一度帰ってくるけど、その時にもまた寝てないようにね」

 まだ半ば以上に寝ぼけ眼だったが、もう役目は果たしたとばかりに母は部屋から出ていこうとする。スーツをピッチリと着こんだ母は、後ろ姿でもまさしくキャリアウーマンといった様子で、見た目に違わず海外にも進出するような企業に勤めている。ただし結婚した際に一旦は退職したために、年齢とは不相応な階級ではあるらしいが、そんな不満を母は虹架にもらしたことはない。

「あっ……待って、お母さん!」

「何?」

 そんな母のおかげで、豪勢とは言わずとも虹架は暮らせてきているわけだけど、あまり家族の時間といったものはない。虹架もそれに文句を言ったことはないが、今回ばかりは仕事に向かおうとする母を呼び止めた。

「昨日、言ったこと。考えてくれた?」

 外行き用の格好で見下ろされると、自分が何か悪いことをしているような錯覚に虹架は襲われるが、負けじと語り
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