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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 9
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つき歩いたり寸前の記憶をなくしている可能性はある」
「やだぁ、あたしたち知らないあいだに……し、し、しちゃってたり?」
「おたがい衣服の乱れはなかったし、それはないだろ」
「ならいいんだけど……」
「やっぱりはじめてはムードのある場所がいいよな」
「当然よ」
「月明かりの下、瑞々しい緑の広がる苔庭を一望できる草庵で契りを結びたいな」
「それがあなたのはじめてだったの?」
「んも〜、そうやって話を蒸し返す〜」

 狭く入り組んだ路地裏の区画から表通りに抜けた瞬間、秋芳と京子に人々の視線が集中する。
 おどろき、おそれ、怒り、憎しみ、うたがい――。
 気を読む力に長けた如来眼の持ち主である京子は視線に込められた感情をつぶさに察知した。

「この世界の俺たちは有名人、それもあまり善良ではない部類に属する類の。という設定なのかな」
「ちがうと思う。みんなあたしたちじゃなくて、あたしたちの着ている服にまっさきに注目しているもの」
「鋭いな」

 この世界でふたりの着ている服は陰陽塾の制服だった。平安時代の装束である狩衣を元にデザインされた、男子は黒、女子は白の制服。べつだん奇異な服装ではない。ましてここは陰陽塾のある渋谷だ。繁華街を歩けばひとりやふたりくらい制服姿の生徒を目にすることもあるだろう。
 さらにひとりとして目を合わそうとしない。こちらが顔を向けるとみな一様に顔を背けて歩みを早める。まるでチンピラや狂人を忌避するようなそぶり。

「少し離れているが陰陽塾に行ってみるか」
「ええ、知っている場所のほうが落ち着くし、とりあえずそこで情報収集しましょう」

 曇り空もあいまってか、日中にもかかわらず街全体が暗く陰鬱な雰囲気につつまれているように感じられた。
 軒を連ねる飲食店のほとんどがシャッターを閉ざしている。中には夜から営業する居酒屋などもあるだろうが、それを考慮しても開いている店が極端に少ない。ここは渋谷一の飲食店街だというのに。
 道を行き交う人々はみな精彩を欠き、怒ったような、くたびれたような表情をしていて笑顔の者などひとりもいない。

「まるで地方都市のさびれた商店街だな」
「それどころかスラムだわ」

 ひとめで路上生活者とわかるような身なりの者も多い。

「やっぱりここは元の世界じゃない。……ここはこんな死んだ街じゃない」
「ええ、あたしもそう思う。渋谷はこんなにさびれてなんかないもの。でもやっぱり声は聞こえないわ」
「まさか、最終ステージはそういう情報なしでクリアしろとかじゃないだろうな」

 どこからか食欲を刺激する匂いがただよってきた。トルコ風の建物のある広場から美味しい匂いがする。

「東京ラーハ。ここはさすがに閉鎖されていないようだな」

 東京ラーハ。渋谷
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