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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
骨喰
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 永禄八年(1565年)
 京都。二条御所。
 十数本の刀が畳の上に突き刺さっていた。
 そのいずれもが天下に名高い名刀利剣であり、一振りで城が買えるほどの値がつく大業物ばかり。
 刀の林の中、一人の男が立っている。
 三十路前後の精悍な顔をした、いかにも名のある武将といった風格。

「豊後はおるか!」
「は、ここに!」

 男の呼びかけに応じ、一人の若武者が姿を見せる。

「これを使え」

 そう言い、突き刺さっていた刀の中から一本を抜き、豊後と呼ばれた若武者に手渡す。

「こ、これは藤四郎吉光! よろしいので?」
「うむ、それで三好の手勢を斬って斬って斬りまくれ!」
「ははっ!」

 男は残りの刀の列をゆっくりと見わたした。
 童子切安綱。
 鬼丸国綱。
 三日月宗近。
 大典太光世。                                  
 世に天下五剣と呼ばれる名高い名刀のうち、四本までもがそこにあった。

「細川隆是様お討ち死に!」

 味方の戦死を知らせる声に混ざって鉄砲を撃つ音や剣戟の音が徐々に近づいてくる。

「御首級、頂戴!」

 庭から数人の兵士がなだれ込んできた。
 男は目の前にある名刀の列から一本。無造作に抜き取るや、襲いかかってきた先頭の兵を袈裟懸けに斬り伏せ、返す刀で二人目の胴を斬り上げる。 
 三人目の兵が刀を上段に振りかぶるも、それが振り下ろされる前にその両腕を横薙ぎに断ち斬り、そのまま首を刎ねる。
 槍を構えて突進してきた相手もいた。
 まず槍の穂先を斬り飛ばし、その勢いに怯んだ隙に距離を詰め、突き殺す。
 唐竹割りに額を断ち斬り、胴を袈裟斬りにし、右に薙ぎ、左に振るい、股間を逆風に斬り上げる……。
 男の技は凄まじく、刀の切れ味は鋭かった。
 粗末な胴鎧程度しか身につけぬ雑兵たちに男の斬撃を防ぐ術はない。
 敵兵たちはたちまちその数を減らし、退散した。
 だがすぐに第二、第三の敵勢が押し寄せてくる。
 いかに天下の名刀とはいえ、何十人も斬っていては刃が欠け、血脂で切れ味が鈍る。
 男は使い物にならなくなった刀はすぐに捨て、新たな刀に差し替えて応戦を繰り返す。
 斬って、斬って、斬って。
 ひたすら斬って斬って斬って斬って、斬りまくった。

「豊後、いるか?」
「こちらに…」

 全身を返り血で朱に染めた若武者が応える。

「書を書く。しばし奥へ行くゆえ、ここをまかす」

 もはやこれまで。辞世の句をしたためようと言うのだ。

「はっ、おまかせください」

 男は血刀を手にしたまま奥の間に入る。

 五月雨は 露か涙か 不如帰 我が名をあげよ 雲の上まで

 朗々とした声が奥から響く。

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