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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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見ただけだ。

見つめられただけ。

ただそれだけなのに、王たる《最強》が一歩退くほどの何かを、その少年は放出していた。

じりっ、と黒雪姫は思わず後退する。ブラック・ロータスの移動法はホバー式。そのためボディバランスが極端に弱いきらいがある。そのため、少し動いただけでも視界が多少ブレる傾向にあった。

だが、ブレるとはいえ、それはほぼ誤差の範囲内のようなものだ。人間の目が左右で微妙に見る景色が違うにもかかわらず、それを見た脳が自動的に一枚の画像として吐き出してくれるようなもの。古参として長い間このアバターを移し身として闘ってきた黒雪姫にしてみれば、そんなものは無意識のうちに処理される類のもの――――そのはずだった。

間違っていた。

一瞬でも、目の前の怪物から目を離してはいけなかった。

あるべき所に、誰もいなかった。

思考に空白が生じた直後、思わず胸の前で構えた右腕を伝う小さな感触を黒雪姫は捉える。

少年が、眼前にいた。

広いグラウンドを挟み、七、八十メートルは離れていた彼我の距離。それがコマ落ちした映画フィルムのような気軽さで、飛び越えられた。

「なッ……んッ!!?」

―――移動、した!?バカな、早すぎるっ!何か推進器(ブースター)系の強化外装でも……いや、それなら噴射炎か推進音があるはずだ……!そのどちらもないとなると……ッ。

あまりの急展開に、思考がまとまらない。

一方、触れられるような近距離まで現れた少年のやっていることは割と単純だ。まるで初めて見たかのように、物珍しい光を宿した瞳で右腕の剣を触ったりしている。まるでトランペットを見る少年のような無邪気な仕草だが、それまでの行程を思うと冷や汗が止まらない。

たとえここで、この少年が見つめる右腕を思いっきり切り上げたとしても、掠りすらしないという確信に近い勘が脳裏を支配してしまっている。

仮想の背筋を冷や汗が流れる。

下手なアクションがどんな結果をもたらすか、その推移に即決で予測を立てられなかった黒雪姫は固まった。

その時。

ひとしきり剣の表面を撫でるように触れていた少年の人差し指が止まった。よく見ると、陶磁器のように白い肌に珠のような血が滲んでいる。おそらく刃に触れてしまったのだろう。絶対切断――――正式名称、常時発動(パッシブ)アビリティ《ターミネート・ソード》によって、ブラック・ロータスの四肢は物理的接触に全て斬撃属性が乗ってしまう。そのため、たとえ小さな力ででも刃部分に触れるとダメージを負ってしまうのだ。

指が切り落とされたりしなくて良かった、と胸を撫でおろすが、しかし同時に黒雪姫は動揺もしていた。

加速世界における他者への攻撃というのは、アバター外見がメタリックなために
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