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幻影想夜
第二十六夜「霧の中」
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う言うと、茜が微笑みながらこう返した。
「ねぇ、大輔君。叱りに来たんじゃなくて…おめでとうを言いたかったんじゃないかな。きっと…祝福したくて来てくれたのよ。」
「…え?」
 大輔は不思議そうに茜を見たが、茜の隣で公司は何か分かってたような顔をして二人へと言った。
「そっか…せっかく曾孫に会えるかも知れないのに大がバカやらかしたから…それであの時来てくれたんだ。だから…命の大切さを教えたんだな。いざ戦争になれば子供どころじゃない。それこそ生きるか死ぬかの瀬戸際…。今の時代だからこそ、こうして守れる命もあるんだ…。」
 それを聞き、大輔は涙を流した。茜も込み上げてくるものがあり、ハンカチで目頭を押さえていた。

 誠一郎は息子を抱けないどころか、遥か遠い戦地で没し…遺骨すら未だ帰ってはいない。愛する人さえも…二度とその腕には抱けなかったのだ。
 それは…愛する人と生涯を共に出来ない…支えてやれないと言うこと…。
 戦争になれば…こんなことは日常茶飯事で、当たり前なこととして処理される…。
 思えば…霧の中から現れたあの光景は、誠一郎の最期の場所…戦死した場所に違いないのだ…。
「俺…一生家族を大切にする…。」
 その大輔の言葉には何の躊躇いもなく…嘘も感じられなかった。

 窓から見える空は、晩秋のどこか儚げで物寂しさを感じさせる高い空…。
 霧の中を彷徨うような…そんな渇いた人生から大輔を救い上げた誠一郎を思い…三人はただ、空を眺める。

 こうしていられるのは…全て先人が造り上げ、守り継いできたからなのだと…そう、三人は心から思ったのだった。



       ...end




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