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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十話 混迷
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可笑しそうに笑っている。腹が立ったが沈んでいる夫よりは良い、我慢する事にしよう。それより軍がどうにもならないとは、一体……。

「軍がどうにもならないと聞きましたが?」
「カストロプの件でヴァレンシュタインが反乱軍に亡命した。それがきっかけでヴァンフリート、イゼルローンで一千万人以上が死んでいる。兵達にしてみれば何故彼らが死んだのか納得がいくまい。兵達は帝国に幻滅しているのだ」
先程までの軽やかな笑いは無い、何処か自らを嘲笑うかのような笑いがある。

「帝国内で反政府活動が激しくなれば我々は孤立しかねん。軍は当てにならんどころか反政府勢力に同調するだろう」
「貴族達は、貴族達は当てにはなりませんか」
私の言葉に夫は昏い笑みを見せた。滅多に見せたことのない笑み……。

「自分の利益の事しか頭にない連中だ、当てにはならん。おそらくは自領の反政府勢力を押さえる事に軍を使うだろう。我らのためになど援軍は出さん、たとえそれが帝国の滅亡につながると分かってもな」
「……」

「今回のテロ、犯人がクロプシュトック侯で良かった」
「どういう事です、貴方」
意味深な言葉だ、どういう意味だろう。クロプシュトック侯なら良かった? 犯人が他の誰かなら都合が悪かった?

「平民が犯人であってみよ、改革を行うのは難しい事になる。テロが改革を呼んだと思わせてはならぬ。平民達に自分達の要求を通すにはテロしかないと思わせてはならぬのだ……、犯人がクロプシュトック侯で有ったのは僥倖だった……」

厳しい声だった。夫は思いつめた様な目をしている。また一口水を飲んだ。
「……次は無い、そう仰るのですね」
夫が頷いた。私の声が掠れているのに気付いたのだろう。夫がグラスを私に差し出してきた。一口飲んで思ったより喉が渇いている事に気付いた。もう一口飲んで夫にグラスを返した。夫が残った水を飲み干しグラスをテーブルの上に置いた。

「危うい所であった……。反政府活動を抑えるためには改革を行うしかない。それによって彼らを抑え兵の帝国への忠誠心を取り戻す……。それしか帝国が生き延びる道は無い」
帝国が生き延びる道……、即ち私達が生き延びる道という事か。夫が私を見た、厳しい視線だ。思わず姿勢を正した。

「女帝陛下がテロに倒れれば、その時はお前が新たな女帝として立つことになる。当然だがお前を危険な目に遭わせる事になるだろう……」
「……」
「それでも私はお前に頼まざるを得ん、帝国を守るために女帝になってくれと……」

私はこれまでこんな厳しい表情をした夫を見たことは無い。頷くことも出来ずにただ夫を見ていた。そんな私に夫の言葉が続く。
「その時はお前の事を思い遣る様な、気遣うような余裕は有るまい。だから今謝っておく、済まぬ、……許せ」

夫が私の目で
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