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霊群の杜
輪入道 後編
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「暴れちゃダメだよ?苦しい時間が長くなるからねぇ」
注射を厭がる子供を宥めるような口調だ。…うんざりする。こいつが云う通り、暴れても無駄なのだろう。この恐怖や苦しみを味わうのが小梅じゃなかったのは、良かった。…何て絶望感だろう。蛍光灯に煌々と照らされているというのに、寒気が止まらない。
こんな状況だというのに、俺は余計な考え事をしていた。


俺はこの『状況』をよく知ってる気がするのだ。


動機は違えど、数多の子供達の魂を屠り続けて来た『祟り神』がいる。
屠られた子供たちは屋敷に囚われ、仲間を増やし、何代にも亘って『祟り神』を恨み続けていたのではないか。
彼らは密かに群れ集い、祟り神に気づかれないように、ひっそりと刃を研ぎ続け、やがてその刃は『祟り神』の喉笛を切り裂いた…かに、思われた。
彼らとて、水槽の母子と同じように呪い方など知らないのだろう。だがその闇雲というか、がむしゃらな呪詛は俺の中に隠れ里を作り、鎌鼬を使役し、『祟り神』の隙を突いた。
―――俺はずっと、疑問に思っていたことがある。
隠れ里を拵えて敵の喉元に忍び寄り、その意識に手を加えて刺客に改造し、鎌鼬で仕留めさせるなどという手段を、彼らは本当に自分たちだけで思いついたのだろうか。


ひょっとしたら彼らもこの母子と同様、ただひたすら、恨み、呪い、喚び続けてきただけなのではないか。


そしてその呪詛は数百年の歳月を経て『何か』を呼び寄せた。
それは多分、様々な偶然を経て、ピタゴラスイッチのように、彼らの元に転がり込んだのではないか。
水槽の母子もまた、俺や奉や小梅までも巻き込み、それらは互いに作用し合い。


―――何か、洒落にならないものを呼び込みつつあるのだ。


俺は確信した。
だって聞こえるのだ。これは多分だが…あの『音』だ。俺は初めて聞くが間違いないだろう。
「最後に、聞きたいことがある」
子供のふりをかなぐり捨て、俺は医師の目を真っ直ぐ見つめた。奴は軽く目を細めて、首をかしげた。
「何でも、聞いていいよ?」
「輪入道を使役する拝み屋なんてのがいるのか」
奴は更に深く、首を傾げる。
「僕は詳しい事は知らない。ただ今回の計画に必要だったのは『呪殺』ではなく『神隠し』だったんだよね。…苦労したよ、こっちの正体を知られずに子供を攫える拝み屋を探すのはねぇ」
ふふ…と、初めて笑い声を上げた。
「もう云っちゃうけど、『儒教』を源流とした呪い師なんだ!珍しいだろ」
「…儒教?あれって孔子とかそんなのが弟子集めて仁だか礼だかについて語り合うやつだろ。呪いなんてできるのか」
話を聞いているうちに、俺は少し落ち着いてきた。
こいつは基本的に、誰かと話をするのが好きなのだ。
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