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霊群の杜
輪入道 後編
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話をさせておけばいい。もう少しで、助けは来るのだ。
「ははは…ないよ。呪いなんて。ただね…自然に対する信仰みたいなものはある。だから地霊を祀る祭礼だとか、儀式みたいなものはあるんだよね」
「それだって呪いじゃないじゃん、儀式じゃん」
…あの『音』は近付きつつある。こいつは何故気が付かないんだ。聞こえてないのか?
「儀式…ってさ、何の為にあるんだと思う?」
ずい、と顔を近づけて、医師は俺の目を覗き込んだ。
「地霊を鎮めて、安寧を得るためだ。…説明は要らないね。僕はもう君を子ども扱いはしないよ?」
「…ふん」
「ふふ…つまり人間の都合で、人ならざるものの思惑を捻じ曲げる『術』なんだよ。呪い師の受け売りだけどね。それを『使役』のレベルまで高め、その術に特化した『宗派』があるんだ。…当然、本家には何百年も前に破門されてるらしいよ」
だって敬うべき地霊を下位の人間が『使役』とか、完っ全に教義に反してるもんね。と、奴はおかしそうに笑った。
「…そっか。じゃあ」


―――ドアの外から、車輪が軋る音がするのは何故だ?


「………え?」
医師の表情が、すっと真顔に戻った。
「ずっと聞こえてただろ。あんた、本当に気が付かなかったの」
「……話が違う。何故、輪入道がここに」
奴は俺の腕をそっと離すと、ドアを細く開けて廊下を覗いた。
「―――覗いたな」
白衣の背中が、びくりと震えた。今も尚高まりつつある車輪の軋りは、その細い悲鳴を呑み込んだ。
蛍光灯の強い白光が照らし出す30余りの母子の亡骸と、禍々しい車輪の軋り。…ここは、何処だ。俺は地獄にでも来たのか。
「俺の友達に神様がいてさ」
もうこの時点で心臓がバクバクいっていたが、あえて世間話風に軽い口調で呟く。あいつが聞いているのかどうかは、割とどうでもいい。ただ口に出していると少しだけ落ち着いた。
「我儘で、身勝手で、怠け者で、気紛れで。神とか地霊ってのは、そういったもんだろう」
だが、だからこそ。
己の我儘を全力でぶつけられる俺を、奉は絶対に死なせない。
「だから感覚的に、なんとなく分かるんだ」
「………」
「使役出来てるなんて思うのは、人間側の勘違いなんだよ。その宗派とやらが遠い昔に破門された理由はそれだ」


―――汝が、吾子を見よ―――


車輪の軋りに似た声が、俺にもはっきりと聞こえた。それは確かに人ならざるものの呟きで…ずしり、と肺を押しつぶすように胸元を圧迫される。なんて声だ。俺に向けられた声ではないことは分かっているのに、震えが止まらない。
―――吾子?
「……あああああああああ!!!!」
その箍の外れたような医師の悲鳴に、俺はようやく我に返った。
「なっ…どうした!?」
「あっ……ああぁああぁあ……」
話にならない。だが医
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