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SNOW ROSE
間章W
月影にそよぐ風
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 北皇暦前、未だ星暦が大陸の主要な暦とされていた時代、一人の若者の上に神託が下った。
 その若者の名はコロニアス。彼に下された神託とは、ケルタスという土地へ赴いて神の天幕を張り、そこで神の言葉を伝えてることであった。一人身のコロニアスは直ちにその神託を実行に移し、家も家財も土地までも売り払って旅に出たのであった。
 数年の旅の末に、彼は神託通りに神の天幕をケルタスの荒れた平野に張り、来るべき未来のために神の言葉を紡ぎ、迷える多くの民に光を与え続けた。それが現在に伝わるコロニアス大聖堂の基盤となった伝説である。
 伝説とは言えど、大聖堂の地下墓所には聖コロニアスの墓も存在し、一般市民でも墓所へ入ることは許されていたのであった。

 さて、ここでは聖コロニアスの伝承ではなく、この大聖堂に関わる一つの物語を語ることになる。
 それは王暦五六十年前後の話であると伝えられているが定かではない。
 物語はカスタスという街の一角、どこにでもある家族の暮らす家から始まる。
 その家族にはレイチェルと言う名の娘がいるが体が弱く、一日の殆んどを家の中で過さねばならなかった。体調の良い時は散歩程度は出来るのだが、病が悪化するにつれ、日の光すらレイチェルの体力を奪うようになっていたためである。
 レイチェルのことは周囲の人々も気に掛けており、毎日のように誰かしらこの家を訪れてはレイチェルに色々な話を聞かせたり、時には菓子や果物などを持って来たりもしていたのであった。
 レイチェルの家族は、父のアンソニーに母のモニカ、そして六歳違いの兄ペーターの四人であるが、親戚もこの街に多く暮らしていた。
 ある日、その親戚の一人で画家あるディビットが、彼の友人を連れてレイチェルのところを訪れた。連れてきた友人とは、久しぶりにこの街を訪れた吟遊詩人の男で、彼は自らが作った小型のリュートを携えてきた。背は高く、美しい金色の髪は長く後ろで束ねられ、端整な顔立ちは優男と言った風情であった。
「君がレイチェルかい?」
 ディビットに促され、その男はレイチェルへと声を掛けた。レイチェルはそんな彼に多少困惑し、躊躇いがちに答えた。
「そうですけど…あなたは誰…?」
「これは失礼しました。私は旅の吟遊詩人で、ティモシー・ランペと申します。」
 男はそう名乗るや、レイチェルへと優雅に頭を下げたのであった。そのティモシーの言葉を聞くや、レイチェルは目を丸くして興奮気味に口を開いた。
「あ…あの、吟遊詩人って音楽家ですよね?私、貴方を呼べる程のお金はありませんわ!」
 なんとも真っ正直な言葉に、ティモシーだけでなく周囲にいた家族やディビット、そして偶然訪れていた近所の人達が皆大いに笑ったのであった。
「いやぁ…ディビットの姪から代価を頂こうとは思ってないよ。それとも、君は音楽
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