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SNOW ROSE
間章W
月影にそよぐ風
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が嫌いなのかい?」
 ティモシーは苦笑いしながらレイチェルに問うと、彼女は首を横に振ってそれを否定しながら答えた。
「音楽は大好き!でも…だからと言って無償で聴かせてもらうなんて、ちゃんとお金を払って聴いてる方に失礼でしょ?私は特別なんかじゃないし、お金を支払うのは道理と言うものじゃないかしら?」
 このレイチェルの答えに、さすがのティモシーも面食らってしまった。
 見た目はひ弱な少女そのものであったが、その心は病むどころか快晴の蒼空のようであったからだ。彼はそれに大層驚き、それ以上に喜ばされたのであった。
 長く旅をしていると、人は多くの悪しきものを目の当たりにしてしまうものである。それこそ体は健康だというのに心が蝕まれている者など、この世には掃いて棄てる程いる。
 しかし、この目の前にいる少女はそれをものともせず、自然の理を通そうとしているのであるのだから、ティモシーはその姿に心が洗われたように感じたのであった。
 暫くティモシーは考えていたが、そんな少女に対し一つの提案をしたのであった。
「それでは…貴女は何か歌を知ってますか?」
 彼にそう問われ、レイチェルは少し考えた後に返答した。
「“枯れることを知らぬ花”や“星よ、行くべき路を”なんかは知ってますけど…。」
 レイチェルが答えた題名は、M.レヴィン作のオラトリオ“時の王とエフィーリア”のソプラノのアリアであった。それを聞くと、ティモシーは微笑んでこう言ったのであった。
「では、一曲だけアリアを聴かせて下さい。それが私への報酬ということで。」
 このティモシーの提案に、レイチェルは呆気にとられてしまったのであった。歌は確かに歌えはするが、伴奏するのがティモシーでは意味がないと思ったからである。
 飽くまで聴き手であるならば代価ともなろうが、それでも少量の代価にしかなり得ない。そうレイチェルが言おうと口を開きかけると、ティモシーは人差し指を口にあててそれを制した。そして直ぐ様小型リュートに手を滑らせ、演奏を開始したのであった。
 雑音しかなかった部屋の中に、突如美しい響きが舞った。それはとても澄んだ音色で、通常のリュート独特の低音は無いにせよ、ティモシーの卓越した技巧に皆は感嘆の表情を浮かべた。
 最初に演奏されたのは、M.レヴィンのソナタ第十五番イ長調であった。二楽章しかない小品ではあるものの、第二楽章のアラ・ブレーヴェはかなりの技巧を要求される難曲で知られているが、ティモシーはそれを難なく弾き切ったのであった。
 演奏が終わるや、部屋の中は拍手の嵐となった。無論、レイチェルも弱いながらも精一杯の拍手を彼に贈ったのであった。
「ありがとうございます。それでは、私目が演奏を続けられますよう、レイチェル嬢にアリアを一曲お願い致しましょう。」
 演奏を終えてから直ぐ
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