暁 〜小説投稿サイト〜
大淀パソコンスクール
ムカつくけど、安心する
夜〜明け方
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全く気が付かなかった……。

「パソコンの勉強しながらせんせーのこと看てるから。せんせーは気にせず休んでて」

 本当は『帰れ』って言わなきゃいけないんだろうけど……どうしてもその一言が出なかった。

「……わかった」
「素直でよろしい」
「わかんないとこあったら……いいから……聞け」
「うん。そうする」

 そうして、ちょっと変則的な、二人だけの授業が始まった。

 授業といっても静かなものだ。部屋の中で聞こえるのは、時計の音と、川内が叩くキーボードの静かなパチパチという音。そして。

「んー……」
「……」
「……あ、そっか。こうすれば……」

 いつもに比べて控えめで静かな……そして、聞いてるだけで耳に心地いい、川内の独り言だけだ。

 ……ピッピッという電子音が、俺のパジャマの中から聞こえた。体温計が、俺の体温を測り終えたらしい。

「……あ、体温計鳴ったね」

 そして川内は、こんな風に時々、俺の様子を見てくれる。

「ちょっとごめんねー……」
「やめいっ……自分で取るわっ」
「こういう時は素直に甘えるもんだよ」

 俺も精一杯抵抗するんだが……このアホは気にせず俺のパジャマの中に手を突っ込んできやがる……マズいんだって色々と……。

「う……」

 言われるままにパジャマの中を弄られる俺。時折、川内がぺたぺたと俺の肌を触るのが、非常によろしくない……。そんな俺の葛藤を素知らぬ顔で受け流し、脇から体温計を抜き去った川内は、それを眺めて難しい顔を浮かべていた。

「んー……高いねー……」
「マジか……」
「汗もまだかいてないし、まだ上がるのかなー……あ、ところでせんせー」
「……ん?」
「喉は乾いてない? ポカリあるよ?」
「今は大丈夫だ」
「おなかはすいてない? 朝から全然食べてないでしょ?」
「……少し、すいたかもしれん」

 夢うつつでぼんやり中、こいつが台所で包丁を握っていたことを思い出した。なんだか楽しそうにまな板をトントンと鳴らしていたような……。

「鍋焼きうどん準備しといたよ。食欲あるなら食べる?」
「おう……」
「んじゃちょっと待ってて。準備してくるから」

 体温計をふりふりした川内は、そう言って台所へと消えていった。ガスレンジに火を入れる音が鳴り、つづいて室内に、だしのいい香りが漂ってくる。

 上体を起こし、川内が鍋焼きうどんを持ってくるのを待つ。さっきから寒くないと思ったら……足元の布団の上に、俺の藍色の半纏がかぶせてあった。半纏を布団にかぶせるだけで、こんなに違うのか……半纏を取って羽織る。やっぱり半纏をとってしまうと、足元が少し冷たいような気がした。

「はーいおまたせー」

 ほどなくして川内が、お盆の上
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