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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十一話 威
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ーン准将」
「……」
ワイドボーンは顔を強張らせている。

分かったか、ワイドボーン。お前がビュコックを評価しても仕方がないんだ。問題は各艦隊司令官がビュコック司令長官の命令を受け入れるかどうかなんだ。ビュコックは司令長官にするより艦隊司令官にとどめた方が良い。その方が同盟の戦力になる。

「それにグリーンヒル総参謀長も良くありません」
「……」
「あの人は穏健な常識人です。反抗的な艦隊司令官や参謀を押さえる事が出来ない。それが出来るくらいならフォーク中佐があそこまで好き勝手に振る舞う事は無かった……」

グリーンヒルはいかにも参謀向きの人物だ。但し指揮官が有能な人物でないと機能しないタイプだろう。上が馬鹿だったり、或いは弱いタイプだと十分に実力を発揮できないタイプだ。つまりビュコックとの組み合わせは良いとは言えない。能力はあるが周囲に弱い司令長官と総参謀長になる。ストレスがたまる一方だろう。

「なら、お前は誰が司令長官に相応しいと思うんだ」
「シトレ元帥です」
「な、お前何を言っているのか、分かっているのか?」
ワイドボーンの声が上ずった。まあ驚くのも無理はないが……。

軍人トップの統合作戦本部長、シトレ元帥が将兵の信頼を取り戻すためナンバー・ツーの宇宙艦隊司令長官に降格する。本来ありえない人事だ。だがだからこそ良い、周囲もシトレが本気だと思うだろう。彼の“威”はおそらく同盟全軍を覆うはずだ。その前で反抗するような馬鹿な指揮官など現れるはずがない。オフレッサーにも十分に対抗できるだろう。

俺がその事を話すとワイドボーンは唸り声をあげて考え込んだ。
「これがベストの選択ですよ」
「それをシトレ元帥に伝えろと言うのか?」
「私は意見を求められたから答えただけです。どうするかは准将が決めれば良い。伝えるか、握りつぶすか……」
「……」

「これから自由惑星同盟軍は強大な敵を迎える事になる。保身が大切なら統合作戦本部長に留まれば良い。同盟が大切なら自ら火の粉を被るぐらいの覚悟を見せて欲しいですね」

蒼白になっているワイドボーンを見ながら思った。シトレ、俺がお前を信用できない理由、それはお前が他人を利用しようとばかり考えることだ。他人を死地に追いやることばかり考えていないで、たまには自分で死地に立ってみろ。お前が宇宙艦隊司令長官になるなら少しは信頼しても良い……。







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