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第八十六話 マリーンドルフ伯爵令嬢は遠征に反対のようです。
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全自動運転システムはもちろんの事改装されたことでの超軽量強化金属による車体はたとえ通常の運転で衝突したとしても衝撃そのものを外部に逃がし、ダメージを車体はおろか搭乗者にも負わせることはない。
優雅に乗り込んだイルーナが運転席のわきに指を当てる。電子指紋認証装置によって車は息を吹き返した。愛車を駆ってある場所へと帝都を走っていた。愛車を運転するのは何もティアナだけではないのである。
車を走らせること20分余り。やがてそれは見えてきた。
帝都の中心部にほど近く、それでいてどこかほかの貴族の邸宅とは一線をかく建築様式。そこが彼女の目指す人のいる邸だった。

「あら、珍しいお客様だこと。」
ヴェストパーレ男爵夫人が居間に入ってくるなり面白そうに声を上げた。
「ええ。突然に押しかけて申し訳ないわ。」
「構わないわ。まだオペラに出かけるまで1時間ほどあるから。」
ウェストパーレ男爵夫人は使用人にお茶を言いつけ、ソファに優雅に腰掛ける。
「また前衛芸術?」
イルーナが笑いを含んだ声で尋ねる。ローエングラム元帥府のbQの上級大将と男勝りの男爵夫人とは知る人ぞ知る交流があるのである。むろんアンネローゼと交流がある以上それは極めて自然な事なのだが。
「そうよ。あなたの親友のランディール侯爵令嬢の構想をいよいよ実行に移すというわけ。」
ウェストパーレ男爵夫人にアレーナが打ち明けた構想に関してはいずれ具体的に日の目を見ることになるだろう。そのためにウェストパーレ男爵夫人は多忙な日々を送っているのだが、それを本人は心から楽しんでやっているのだから、天職というべきなのだろう。
「ごめんなさいね。あなた自身も色々とお忙しいでしょうに、無理を言ってしまって。まだあなたの下に来るのでしょう?前衛芸術家、とやらが。」
「大丈夫よ。好きでやっていることだもの。ええ。最近は本当に私の下にやってくる『芸術家』が多くて。それでいてモノになるのはほんの一握り。まったくこればかりは使用人に選別は任せられないのよねぇ。」
そこまで言ってから男爵夫人は、
「で、そんなときにわざわざやってくるからには何かしら頼みごとがあると見たけれど。」
イルーナは単刀直入に、かつ明確に訪問の目的を話した。それを聞くうちに次第に男爵夫人は目を見開き、終わった後もしばらく声が出ない様子だった。
「・・・・本気なの?」
「ええ、本気よ。」
イルーナは短く答えた。
「あなたが、そんなことを考えていたなんて・・・・。これはまだあなたを過小評価していたかもしれないわね。」
前世からの年齢を合わせると遥か年下の相手にそう言われるとは、迷惑に思うべきか、あるいはまっとうな意見だというべきか、いずれにしてもイルーナは男爵夫人に自分の思いを話すことはなかった。代わりに、
「あなたにはアンネローゼの
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