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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
最終話 本日天気晴朗ナレドモ波高シ
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走り続けても、目の前の妹たちの背中は大きくならない。それをもどかしく感じながら紀伊は夜の海を走り続けていた。
「尾張!!近江!!待って、待ちなさい!!!」
海上にとどろくほどの声を張り上げても、目の前の妹たちは振り返らない。その妹たちの更に前には信じられないくらい大きな満月が光り輝いている。それは水平線上に届くほどの大きさだった。
「尾張、近江!!!」
紀伊が再び声を張り上げたが、そこでつんのめりそうになった。いつの間にか紀伊の足元が氷に覆われていて動けなくなっていたのだ。そのくせ、尾張と近江の周りは静かな波音をたてて海が洗っている。
「尾張、近江、お願い!!止まって!!!!」
絶望感に抱きすくめられながら紀伊が三度目の声を上げた。

 ふと、尾張と近江がこちらを振り返った。今度こそ声が届いたのかと喜んだ紀伊が戦慄した。
 二人の顔色はまるでこの世の人ではないほど白かったのだ。彼女たちの後ろには、武蔵、飛龍が夜風にふかれながら立っていて、その後ろには――。
「綾波さん!?」
あの初々しいながらも穏やかな優しい顔で綾波がこちらを見ていた。綾波は前の4人に手招きするようにうなずくと、4人はすっと背を向けて綾波の方に白波を蹴立てて走り出した。ほどなくして綾波に追いついた5人は一緒に走り出し、姿がますます遠ざかっていく。
「尾張、近江、武蔵さん、飛龍さん、綾波さん!!!」
叫び続ける紀伊の声は次第に遠ざかる5人にはまるで届かなかった。しまいには声も出なくなり、紀伊は両手を振り回した。ただそうするしかできなかった。
5人の後姿が、ふっと浮かび上がり、満月に向かって夜空を登り始めた。あんなに遠いのに、夜風になびく髪、満月の光を浴びたその後ろ姿ははっきりと見えていた。
「ああああああああああッ!!!」
突然声が出るようになり、紀伊は思いっきり叫んでいた。
「姉様っ!!」
不意に後ろから暖かい手で抱きしめられる。振り向いた紀伊の眼に讃岐の姿が飛び込んできた。
「姉様っ!!」
はっと紀伊は体を起こした。眩しいくらいの日光が目に流れ込み、柔らかな風が体に触れるのが分かった。
「ここは・・・?!」
目がちかちかする。頭が体が重い。思う通りに動かない。
「よかった・・・姉様・・・・・。」
声のする方を苦労して向くと、そこには讃岐の姿があった。
「讃岐・・・・。」
讃岐は泣いていた。流れ落ちる涙をふこうともせずただひたすらに泣いていた。
「もう1週間も目を覚まさないから・・・心配したんですよ・・・・。姉様までいなくなってしまったら、私、私・・・・!!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をみて、あなたの美貌がだいなしよと紀伊は見当違いのことを考えてしまった。それでも――。



「尾張と近江。」



ひっ、と讃岐
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