暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六話 キフォイザー星域の会戦(その4)
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
帝国暦 488年  2月 1日  ガイエスブルク要塞   オットー・フォン・ブラウンシュバイク



辺境星域回復の試みは潰えた。一昨日から昨日にかけて行なわれたキフォイザー星域の会戦で貴族連合軍は敗退した。クライスト、ヴァルテンベルク大将からの報告によれば、もう少しで勝てるところだったのだと言う。ヒルデスハイム伯、あの小僧が焦らなければ勝てたと……。

「やはり貴族連合軍の脆さが出ましたな」
グライフス総司令官の言葉が耳を打った。
「烏合の衆、という事か」
グライフスは頷くと話し始めた。

「戦が始まるまでは一つにまとまりますが、始まった後はバラバラになる。自分の事しか考えません」
「酷い言い様だな」
思わず口調が苦くなった。だが否定は出来ない、全くの事実だ。

シュターデンは一時的にメルカッツ達を出し抜き、オーディンに迫った。だがその後はシェッツラー子爵、ラートブルフ男爵の我儘に振り回され敗北した。今回も同様だ、今一歩で勝てるという時に功名に逸る。そして敵は常にそのミスを的確に突いてくる。

「覚悟はしていた事だがリッテンハイム侯を喪ったのは痛いな」
「確かに。……ですが収穫が無かったわけでも有りません」
収穫? リッテンハイム侯を喪ったのだ、一体どんな収穫が有ったと言うのだ。

「クライスト、ヴァルテンベルク大将は信頼できます」
「……」
「そしてヘルダー子爵、ホージンガー男爵も。彼らは協力することをこの戦いで学びました」

冷静なグライフスの口調が癇に障った。
「だから何だと言うのだ! 採算は取れるとでも言うのか! リッテンハイム侯は死んだのだぞ!」

わしの怒声にグライフスは一瞬だけ目を閉じた。
「そう思っていただかなくてはなりません」
「グライフス!」

「公は盟主なのです! リッテンハイム侯の死は無駄ではありません、彼らが信頼できる事は確認できました。決戦では役に立ってくれるでしょう」
「……すまぬ、つい感情的になった。卿の言う通りだ、侯の死は無駄ではない」

グライフスがこちらを見ている。冷静な目だ、だが冷酷な目ではない。意志の力で感情を抑えているのかも知れない。上に立つとはそういう能力が必要とされるという事か……。

「グライフス、上に立つのも容易ではないな。常に冷静さを要求される。卿が居なかったら、わしは感情に任せて馬鹿げたことをしていたかもしれん……」

グライフスは何かを言いかけ、口を閉じた。そして躊躇いがちに話し始めた。
「軍では常にそれを要求されます。そしてそれを実行できる人間だけが、生き残り、出世して行きます」
「出来ぬ人間は戦場で淘汰されるか」

グライフスが頷いた。彼の本当に言いたい事が何なのかが分かる。何故彼が一度口を開き閉じたのか。討伐
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ