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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六話 キフォイザー星域の会戦(その4)
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そうな表情でわしを見ている。

二人もキフォイザー星域で戦が起きた事は知っている。サビーネが不安に思ってエリザベートを呼んだのか、或いはエリザベートが心配して傍に居るのか、困惑したが今更出直すわけにもいかん。二人を傍に呼んだ、おずおずと近付いてくる。

「サビーネ、キフォイザー星域で戦が起きた事は知っているな」
「はい」
細い声だ、今更ながらこの娘に真実を告げなければならない残酷さに心が怯んだ。だがやらねばならん。サビーネにとってもっとも近しい親族はわしだ。逃げ出したくなる心を叱咤した。

「残念だが、味方は敗北した」
「!」
サビーネ、そんな縋るような目でわしを見るな。

「リッテンハイム侯は味方を逃がすため、最後まで戦場に残ったそうだ」
「では、お父様は」
「……残念だが、戦死した。見事な最期だったと聞いている」

たちまちサビーネの目に涙が溢れ出した。エリザベートも涙ぐんでいる。
「サビーネ、良く聞きなさい」
「伯父上」

サビーネが泣きながら縋りつくような視線を向けてきた。リッテンハイム侯の事を思った。どんな気持でこの娘を置いていった? さぞ辛かっただろう、それなのに最後まで戦場に残ったか……。

「リッテンハイム侯は、お前の父は反逆者として死んだ」
「お父様!」
サビーネが俯くとエリザベートがわしを非難するかのように声を上げた。エリザベート、良く聞くのだ、これから話す事はサビーネだけではない、お前にも関わる事だ。

「その事でサビーネ、お前は辛い思いをするかもしれない。だが決して下を向いてはならん」
「伯父上……」
サビーネが顔を上げ驚いたようにわしを見ている。

「サビーネ、お前の父は誰よりも立派に戦ったのだ。味方を逃がすため最後まで戦場に留まり続けた、そして死んだ……」
「……」

「分かるな? お前の父は反逆者ではあっても恥ずべき男ではないのだ。胸を張りなさい、お前は決してリッテンハイム侯の事を恥じてはならん、侯を恥じる事はわしが許さん、良いな」

サビーネが頷いた。涙は止まっている。
「私は、お父様の事を恥じません。お父様は私の事を誰よりも愛してくれました。だから恥じません、私はウィルヘルム・フォン・リッテンハイム三世の娘です」

「良く言った、サビーネ。お前はリッテンハイム侯の娘だ。今の言葉を侯が聞けばお前を誇りに思うだろう。その誇りを忘れるな」
「はい」

サビーネの目からまた涙が溢れ出した。抱き寄せて髪を撫でてやると声を上げて泣き始めた。つられたかのようにエリザベートも泣き出した。わしは娘二人を抱き寄せながら二人が泣き止むまで黙って立っていた。

リッテンハイム侯、わしは侯が嫌いだ。目障りだと思ったときは生きていて傍に居て欲しいと思ったときには死んで
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