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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
56.第六地獄・凶暴剽界
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 これまで三度繰り返したが、黒竜と戦う際のオーネストの精神状態は常に日常以上に異様だった。
 目に入るありとあらゆる敵を、敵以上に憎い「何か」ごと鏖殺するように、破滅的に、のめり込むように、無為に、無策に、破壊衝動の赴くままにダンジョンを突き進む男を、誰が正気と言えようか。裂かれた腕で敵を斬り、兜もなしに頭突きで敵の牙を砕き、背中から血を噴出させながら正面の敵を蹴り潰す。口から吐き出した吐血と、その血も慄く殺意に満ちた雄叫び。巨人も怯み、獣をも怯えさせ、その隙を逃さず破滅の剣を振りかざして返り血に塗れる。そんなものは既に人間とは言えない。――化け物の類だ。

 そしてその化け物はいつも、どんな敵を殺しても同じ場所で壁に突き当たる。
 血濡れの化け物より更に化け物らしい、太古の怪物に。

 最初は何度前へ進んでも後ろへ吹き飛ばされ続け、それでも前へ進もうとして足が折れ、最終的には気を失った。その時は偶然にも餌を蓄える性質のある特殊な魔物に生餌として黒竜から離れた場所へと連れ去られた。
 目を覚ましたオーネストは、自分を喰らおうとしたその魔物の顎を殴り潰した。依然捕らわれたままの狂気を抱えて奥に進もうとしたが、当時のオーネストの素手では突破できない敵が多すぎて、武器を手に入れに引き返すことで一度頭が冷えた。

 この頃、世間知らずの少年はこの古の覇王を知識としては知っていたが、自分の命さえ見えていない盲目的な彼にはそれが自分の当たった壁の正体だとは思っていなかった。自分が何度も命を捨てる勢いでぶつかり続けた数多の「魔物」という括りの一つに過ぎない。あれは確かに強かったが、倒せば下の階層にもっと強い存在がいるのだろう――そう考えていた。

 二度目はそれから更に成長し、ヘファイストスの剣を手に入れても尚、誰の手助けも求めずに『地獄の三日間』の残滓が潜むこの都市を彷徨い歩いていた頃。今度は以前より遥かに早く、纏う狂気もさらに深く灼熱の溶岩のように滾っていた。そして黒竜のいる場所へと再度辿り着き――この時、やっとオーネストと黒竜は互いに互いを個の存在として認識した。

 オーネストは、二度目の対峙の際にこの漆黒の破壊者と一度戦ったことがある事に気付いた。
 そしてその力の差が、当時自身が思っていたほど埋まっていない事も瞬時に理解した。

 黒竜は、そのちっぽけな人間が以前に珍しく縊り殺し損ねた存在であることに気付いた。
 そしてその力が、自身には及ばずとも以前より爆発的に増大していることを知った。

 オーネストは混沌とした激情の奔流の中で、黒竜との戦いで自分が果てるかもしれないことを期待した。抗っても抗っても届かずに、徹底的な破壊が己の身に返ってくる。その果てに辿り着けるなら、そこが終着点かもしれない。言葉で形容しがたい向
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