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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第152話 冬の花火
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ンなのだが、それでも雰囲気を盛り上げるには共に花火を見つめるのも悪くはない……はず。そもそも、何故、冬の花火がこれほどまでに心の何処かに引っ掛かるのか、……の理由を考えるのなら、それは彼女を俺に感じさせたから。
 結界の影響から、本来なら遠方の花火を打ち上げる際の、少し間の抜けた音が聞こえて来ないこの場所。その無音がもたらせる儚さと幽玄。静寂と枯淡(こたん)の雰囲気から彼女を強く意識させたのだと思う。

 それなら、ここは俺を見つめるよりも、同じ方向へと視線を向けるだけでも色々な意味で効果があると思うのだが……。

 相変わらず知に働きまくった……少し人間としては問題があるんじゃないか、と言う思考で彼女に話し掛ける俺。
 僅かな逡巡を発する有希。ただ、その中に差し迫った危機と言う物を感じさせない以上、現状で何か危険な事態が起きつつある、と言う訳ではない事が読み取れる。

 しかし――

「涼宮ハルヒが呼び掛けて来ている」

 しかし、矢張り封殺する事は出来ない……と考えたのか、そう答えを返す有希。
 成るほど、彼奴か。そう考え、首肯いて見せる俺。これだけで答えは十分。

 刹那、周囲の気配が変わった。
 温泉からゆっくりと立ち昇る白い湯気は変わらない。常に湧き出し続ける完全かけ流しの源泉が作り出す小さな流れ。温泉独特の香りと、それ以上に強く感じて居る彼女の香りも……。
 しかし、矢張り世界が変わって仕舞った。

「ちょっと、寝ているんじゃないでしょうね!」

 久しぶりに発生した二人だけの(静寂の)時間。その心穏やかな時間に復活する喧騒。その中心に何時も存在する少女の声が、ヒノキ製の壁の向こう側から投げ付けられていた。

「ちゃんと聞こえとるがな」

 何や、イチイチ五月蠅(うるさ)いやっちゃな。かなり面倒臭そうに独り言を口にした後、答えを返す。但し、当然の如くその独り言の部分も向こう側に聞こえるレベルの音量で行う俺。こう言う余計なひと言が、彼女……涼宮ハルヒを怒らせるのでしょうが、それでも、こう言う部分を止めて仕舞うと俺が俺でなくなって仕舞うような気がする。
 矢張り、無駄口の海で溺れるぐらいでないと俺が俺ではなくなるし、関西系のキャラ立ても出来なくなって仕舞うから。
 聞こえて居るのならさっさと答えなさいよね、本当に鈍いんだから。

 当然のように、コチラもわざわざ聞こえるように嫌味を口にするハルヒ。何となくなのだが、俺の顔を上から見下ろす彼女の姿が想像出来て笑える。腕は胸の前で組み、右脚にのみ体重を掛けながら、少し苛立つかのように右手の人差し指で自らの二の腕を叩く。
 今は、濡れた黒髪が邪魔にならないようにタオルで纏める事に因り、その整った容貌が彼女の気の強さを強調するかのように作用して
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