暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第二章 追憶のアイアンソード
第32話 過去との決別
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は!」

 全ての村人が、竜正に対して一様にひれ伏していた。共に笑い合い、暮らしてきた仲間達も。村のために働き続け、ようやく信頼を勝ち取った村長も。
 そして――あの夜、情を交わした少女までも。

 誰一人として、変わらず竜正を受け入れる者など……いなかったのだ。

(まさか……タツマサ君が、帝国勇者だったとは! 二年前に死んだと聞いていたのに……! 何のためにこの村に近づいてきたのかは知らんが、今は村の全てを投げうってでも、皆をこの悪鬼から守らねば……!)

 村人達の先頭で、頭を地面に擦り付ける村長は、村人達の人命を守るべく思考を巡らせる。
 そして――ある決断をして、我が娘と視線を交わした。

(ベルタ……お前を守れぬ、この父を恨め……!)
(ううん、いいよ。だって……村の皆の、ためだから……)

 父として、絶対に許されない願い。だが、それを叶えねば帝国勇者の機嫌を損ね、村人に危険が及ぶかも知れない。

 その想いを汲んで、少女は眼差しで願いを聞き入れる。やがて、身を切るような決断を背負い、村長は顔を上げた。
 同時に、娘も立ち上がる。

「帝国勇者様。この村一番の器量よしと評判の我が娘を、あなた様に差し上げましょう。どのように扱われても構いません。ですからどうか、この村の者達にお慈悲を……」
「……私からも、お願いします……。帝国勇者、様……」

 娘――ベルタは震えながら、父に続くように竜正に声を掛ける。もはや、その表情には昨夜の安らぎなど一欠片も残されていない。
 彼女の目に映る少年は、もはやタツマサという男ではなく――帝国勇者でしかないのだから。

(……)

 自分を見る人々の――ベルタの目の色から、竜正は悟る。これこそ、本来自分が浴びるべき視線なのだと。
 帝国勇者として、受けるべき咎なのだと。

(何故だろう。こうなることは、わかっていたはずなのに)

 正気に戻った騎士が、帝国勇者と発言した瞬間から。こうなる予想はしていた。覚悟もしていた。
 それでも……竜正の表情は暗い。

 一夜限りだとしても、共に肌を寄せ合った少女が、自分に心を開いてくれていた彼女が――怯えながら、それでも勇気を振り絞って生贄になろうとしている。
 村の皆を、自分から守るために。

「……」
「帝国勇者、様……?」

 それがわかってしまった竜正には……もう、ここに留まることは出来なかった。彼は重い足取りで踵を返すと、無言のまま歩み出す。
 その背に、ベルタはおずおずと声を掛ける――が、かつて惹かれた少年は、振り返ることなく進んでいた。

 村人達が戸惑いの声をあげても、少年は立ち止まることなく。

 村から、一歩。また一歩と、遠ざかって行く。

 孤独という吹雪に
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