第二章 追憶のアイアンソード
第32話 過去との決別
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
は!」
全ての村人が、竜正に対して一様にひれ伏していた。共に笑い合い、暮らしてきた仲間達も。村のために働き続け、ようやく信頼を勝ち取った村長も。
そして――あの夜、情を交わした少女までも。
誰一人として、変わらず竜正を受け入れる者など……いなかったのだ。
(まさか……タツマサ君が、帝国勇者だったとは! 二年前に死んだと聞いていたのに……! 何のためにこの村に近づいてきたのかは知らんが、今は村の全てを投げうってでも、皆をこの悪鬼から守らねば……!)
村人達の先頭で、頭を地面に擦り付ける村長は、村人達の人命を守るべく思考を巡らせる。
そして――ある決断をして、我が娘と視線を交わした。
(ベルタ……お前を守れぬ、この父を恨め……!)
(ううん、いいよ。だって……村の皆の、ためだから……)
父として、絶対に許されない願い。だが、それを叶えねば帝国勇者の機嫌を損ね、村人に危険が及ぶかも知れない。
その想いを汲んで、少女は眼差しで願いを聞き入れる。やがて、身を切るような決断を背負い、村長は顔を上げた。
同時に、娘も立ち上がる。
「帝国勇者様。この村一番の器量よしと評判の我が娘を、あなた様に差し上げましょう。どのように扱われても構いません。ですからどうか、この村の者達にお慈悲を……」
「……私からも、お願いします……。帝国勇者、様……」
娘――ベルタは震えながら、父に続くように竜正に声を掛ける。もはや、その表情には昨夜の安らぎなど一欠片も残されていない。
彼女の目に映る少年は、もはやタツマサという男ではなく――帝国勇者でしかないのだから。
(……)
自分を見る人々の――ベルタの目の色から、竜正は悟る。これこそ、本来自分が浴びるべき視線なのだと。
帝国勇者として、受けるべき咎なのだと。
(何故だろう。こうなることは、わかっていたはずなのに)
正気に戻った騎士が、帝国勇者と発言した瞬間から。こうなる予想はしていた。覚悟もしていた。
それでも……竜正の表情は暗い。
一夜限りだとしても、共に肌を寄せ合った少女が、自分に心を開いてくれていた彼女が――怯えながら、それでも勇気を振り絞って生贄になろうとしている。
村の皆を、自分から守るために。
「……」
「帝国勇者、様……?」
それがわかってしまった竜正には……もう、ここに留まることは出来なかった。彼は重い足取りで踵を返すと、無言のまま歩み出す。
その背に、ベルタはおずおずと声を掛ける――が、かつて惹かれた少年は、振り返ることなく進んでいた。
村人達が戸惑いの声をあげても、少年は立ち止まることなく。
村から、一歩。また一歩と、遠ざかって行く。
孤独という吹雪に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ